●SCHOOL EXCURSION 1●
※彩と精菜のクラスメートの女子視点です
同級生の男子の中で取り分け人気のある女子。
それが『進藤彩さん』と『緒方精菜さん』だ――
「わ〜涼し〜」
「東京と全然違うねー!」
中学2年の初夏。
私達は北海道に修学旅行に行った。
修学旅行は寝食共に基本班ごとに行動する。
私と同じ班になった子達の中に、その進藤さんと緒方さんもいた。
もちろん移動のバスでの席も近く、二人は私のすぐ後ろだった。
当然二人の会話も耳に入ってくる……
「札幌と言えばやっぱりラーメンだよね!精菜、夜ホテル抜け出して食べに行こうよ〜」
「彩ったら…補導されちゃうよ?」
進藤さんは明るくて面白い女の子だ。
男女問わず誰とでも仲良くなれる性格で、友達ももちろん多い。
勉強は中の中くらいだけど、スポーツ万能の運動神経抜群なので運動部じゃないのが不思議なくらい。
じゃあ何部なのかと言うと……帰宅部だ。
なぜなら進藤さんは囲碁のプロ棋士だから。
小5でプロ試験を突破した時はさすがにビックリしたけど、不思議ではなかった。
だって彼女の両親はあの『進藤ヒカル本因坊』と『塔矢アキラ名人』だから。
おまけに兄はあの『進藤佐為七段』だ。
可愛くて面白くてスポーツ万能で家族も有名人で――となると、やっぱりそれなりに進藤さんはモテる。
でもこの修学旅行で告白しようと思ってる強者はいないと思う。
なぜなら数日前、彼女は学校で1、2を争うイケメンのサッカー部のキャプテンを振ったばかりからだ。
「好きです」と告白した彼を「ごめんなさい!」と瞬殺したことは、今や学校中の誰もが知っている。
あのサッカー部のキャプテンでも駄目だったのに、挑戦してみようと思う強者はきっといない。
ちなみに進藤さんは断る時に「私、好きな人いるから」と言ったそうだ。
それは一体誰なんだろう?
「精菜お土産どうする?」
「そうなんだよねぇ……お父さんしょっちゅう北海道来てるし…」
「うちも〜。先週の本因坊戦なんか、まさに札幌であったばかりだし。悩むよねぇ…」
「明日の旭山動物園で探してみる?」
「緒方先生に動物のストラップとかあげちゃう?w」
「やだ彩ったら〜」
クスクス緒方さんが笑っている。
こんな風に緒方さんが笑うのは進藤さんの前だけだ。
緒方さんは才色兼備という言葉がピッタリな女の子だ。
でも美人過ぎて近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
おまけに成績は常に学年トップ、断トツだ。
進藤さんと同じく囲碁のプロ棋士でもある彼女だけど、彼女と進藤さんは棋士の種類?が少し違うらしい。
正棋士と特別採用棋士。
よく分からないけど、正社員と契約社員みたいな違いだろうか?
クラスの子が一度進藤さんに違いを説明して貰っていた。
「んとね、違いはほとんど対局料だけかな。一回戦の対局料が特別採用だと半分になっちゃうんだよね〜」
「半分?」
「うん。例えば名人戦だと同じ予選Cを戦っても、精菜は13万だけど私は半分の6万5千しか貰えないってこと」
「6万5千でも中学生には十分じゃ…」
「まぁね〜」と進藤さんは笑っていたけれど。
緒方さんは横で少し申し訳なさそうな顔をしていた。
そんな緒方さんが女流のタイトル戦の挑戦者に決まったのは先月のことだ。
もちろん三盤勝負の相手は塔矢アキラ名人となる。
当たり前だけど、女流タイトルはかれこれ15年は全て塔矢名人が牛耳っている。
(男性棋士に勝ちまくって名人なんだから、他の女流が敵うわけがないのだ…)
完全なる独壇場。
緒方さんはどのくらい塔矢名人に通用するんだろう……
ちなみにそんな完璧とも言える近寄りがたい緒方さんだから、女子の友達は当然少ない。
というか、進藤さん以外特に仲のいい子はいない。
進藤さんが手合いで緒方さんだけが学校に来てる時、彼女は休み時間いつも一人ぼっちだ。
でも特に気にしている様子でもなく、読書とかしてたり携帯を弄ってるけど。
もちろん美人なので男子には人気があるから、たまに男子には話しかけられてるけど。
というか、しょっちゅう呼び出されて告白されてるけど。
(男子は確実に進藤さんが休みの日を狙っている)
もちろん、どんなに告白されても、進藤さんと同じ「ごめんなさい」の一点張りらしい。
「好きな人いるから…」と、これまた進藤さんと同じ理由も添えて。
それは一体誰なんだろう?
進藤さんと緒方さんの想い人。
それを気になってるクラスメートは多い。
修学旅行は絶好の機会だ。
絶対に聞き出してやろう♪
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