●GO!GO!SANA 7●
「彩おばさん、来ちゃった♪」
「佐菜ちゃん、いらっしゃ〜い。プロ試験合格おめでとう!」
「ありがとう」
今日は放課後、彩おばさんの家に打ちに寄ってみた。
彩おばさんのおウチはまだ建って一年の新築でピカピカだ。
昔はタワーマンションに住んでたんだけど、固定費がかかりすぎるので、そのマンションを売ったお金で家を建てたらしい。
(それでも5千万くらい残ったらしい。恐るべしタワマン)
「聞いたよ〜。翔一君と付き合い始めたんだって?」
「え、だ、誰から聞いたの?」
「お兄ちゃん。昨日棋院で偶然会って。佐菜ちゃんに余計なこと吹き込むなって怒られちゃった」
相変わらず過保護過ぎだよね〜と彩おばさんが笑っている。
お父さんたら……皆に言いふらしてるんだろうか……
「ほ、他にも何か聞いた…?」
「うん。キスより先は翔一君が七段になってからなんだって?」
ギャー!!そんなことまで言わなくていいのに!
「お兄ちゃんたら自分のことは棚に上げて厳し過ぎだよね〜」
「…昭彦おじさんは何年目で七段になったの?」
「えーと、ハタチだから丸4年くらいかな?」
「昭彦おじさんで4年かぁ…。じゃあ翔ならやっぱり10年くらいかかりそうだね…」
「いやいや、やる気スイッチ入って意外と早いかもよ?でもあんまり早くても困るよねぇ」
「え?」
「だって七段になったらエッチOKってことでしょ?ドッキドキだよね〜」
「……」
確かに……あんまり早くても困るかもしれない。
気持ちの準備が出来ない。
最低でも5年はかかってほしいかもしれない。
「誠と航は?」
「塾。年明けたらすぐ受験だしね〜」
彩おばさんには小6の双子の息子がいる。
二人ともめちゃめちゃ頭良くて、昭彦おじさんの母校を受験するらしい。
偏差値70超えの超進学校。
何と倍率は4倍。
つまり4人に1人しか受からない。
海王小学校からほぼ受験無しで進学したようなものの私にとっては、中学受験は未知の世界だ。
もちろん彩おばさんに、二人に勉強を教えるだけの学力はなく、フレーフレーとポンポンを持って応援するしか出来ない。
そもそも二人は棋士の仕事で忙しい両親に代わり、父方の祖父母の家で放課後や休日の大半を過ごしていた。
二人がこんなに賢く育ったのは、向こうのおじいさんの教育の成果だと思う。
「精菜はどう?だいぶお腹大きい?」
「うん。お母さんすっごく楽しみにしてるよ。もちろんお父さんも!」
「だよね〜。念願の第二子だもんね〜」
私が生まれた以降、なかなか二人目に恵まれなかったうちの両親。
タイトルホルダーの父が忙しすぎたせいもあるのかもしれない。
でも私が中学に上がったこともあって、両親はこのGWに私を祖父母の家に預け、二人だけで二人が結婚式を挙げた思い出のハワイに休暇に行ったのだ。
(きっと弟はその時に出来た子なんだろうな、と思う)
「いいな〜赤ちゃん。私ももう一人くらい産もうかな〜」
「昭彦おじさんにお願いしてみたら?」
「うん。今日帰って来たらしてみる!」
彩おばさんが燃えていた。
彩おばさんに迫られて、顔を真っ赤にしながらも要望に即座に応えそうな昭彦おじさんの姿が目に浮かぶ。
双子の子育てはかなり大変だ。
だからおばさん夫婦は今まで子供は二人で満足していた。
でもその二人も来年には中学生だ。
だいぶ手がかからなくなってきたから(お金はかかるけど)、三人目を考える余裕が出来たのかもしれない。
彩おばさんはまだ34歳。
うん、まだまだ全然産めるね!
パチッ パチッ パチッ
彩おばさんと一局打ち始めた。
彩おばさんは現在七段。
女流棋士でこの若さで七段にまでなれる人は少ない。
でも私のお母さんは何と18歳でなったらしい。
アキラおばあちゃんから唯一女流タイトルを奪取出来たのが私の母。
でも20歳の時、惜しまれながらも寿引退。
それ以降はずっと父のサポートに回っている。
でも私もたまに母と打つけど、今でもめちゃくちゃ強かったりする。
きっとしょっちゅう父と打ってるからだ。
父と打つことで全盛期の棋力を保ってるんだ。
今もし棋士に復帰したとしても、絶対すぐに上まで上り詰めれそうな気がする。
「そういえば誠と航はプロ棋士にはならないの?あんなに強いのに」
「どうなんだろうね。とりあえず今年のプロ試験は受験があるからパスしたけど」
「うん、一緒にならなくてよかったよ」
「何言ってるの〜佐菜ちゃん院生1位の窪田君にも勝ったくせに〜。さすがお兄ちゃんと精菜の娘だよね!」
「そういえばお父さんとお母さんて同期なんだよね?」
「そうだよ、ちなみに私も昭彦さんもね。佐菜ちゃんの同期は翔一君と窪田君だね」
「うん」
もちろんこの後ある女流のプロ試験に受かった子も、関西棋院のプロ試験に受かった子も同期になる。
全員が揃うのは3月末にある新入段者免状授与式だろう。
皆に会えるのが楽しみだ――
NEXT
彩の「お願い」シーンは6/20の日記参照で★