●GO!GO!SANA 6●
「佐菜ちゃん、いらっしゃい」
「おじさん、こんにちは〜。お邪魔します」
私の家からほんの300m。
今日は私が翔の家に遊びに(打ちに)やって来た。
玄関で出迎えてくれたのは西条のおじさん。
婿養子に入って苗字が変わったおじさんだけど、仕事ではずっと「西条」を名乗っている。
祖母が結婚後も「塔矢」なのと同じだ。
ちなみに彩おばさんも「進藤」のままだ。
棋士は結婚しても旧姓を名乗る人が多い。
「翔一と付き合い始めたんやって?」
「え、しょ、翔から聞いたんですか?!」
「いんや、進藤から」
「お父さんから?!」
「もし佐菜ちゃんが家に来たら、見張るよう頼まれてもたわ」
ホンマ過保護な奴やな〜とおじさんが笑う。
「父さんのせいだろ!」
と玄関にやって来た翔が怒る。
「中1のくせに初デートでするなんてマジ考えられないんだけど!」
「ええやん、別に。翔やって興味津々なくせに〜」
翔の顔がカッと赤く染まる。
もちろん私の顔も……
「もう父さんは放っておいて俺の部屋行こう」
と翔が私の右腕を掴んだ。
でも左腕をおじさんに掴まれる。
「残念やけど、進藤に見張るって約束してもたけんな。二人とも今日はリビングで打とうな」
「はぁ??」
「翔が佐菜ちゃんに変なことせんようチェックせなあかんけんな」
「するわけないだろ?!打つだけだし!」
「ほなリビングでも問題ないやろ?今は大人しく言うこときいとかな、交際も却下されるで」
「……くそっ」
翔が私の手を離してしぶしぶリビングに向かった。
まぁ確かに打つだけならどこでも同じだ。
リビングの机の上に脚のない碁盤を置いて、私達は向かい合ってソファーに座った。
「ニギるな」
「うん」
私が黒と決まる。
「「お願いします」」
パチッ パチッ パチッ
私と翔が打ってる間、おじさんは横のダイニングテーブルでパソコンをしていた。
おそらく棋譜整理だろう。
一時間くらい経ったところで、「置いておくな」とオレンジジュースとお菓子をくれた。
「ありがとうございます」
頭を使うから甘いものはすごく嬉しい。
ジュースを飲みながら、少しばかり長考してる翔の顔を見た。
真剣な表情。
翔は普段はにこにこしてる奴だから、真剣な表情はすごく大人っぽくてカッコいい。
碁笥に入ったままの指。
手もすごく大きくなってゴツゴツしている。
というか、体全体がゴツゴツしている。
(堅そう…)
少年から青年に確実に変化していってる翔。
私は自分の体を見た。
私の体は大人の女の人には程遠い体型だ。
胸だってAそのもの。
いつかお母さんみたいに私もEカップとかになるんだろうか。
あれくらい大きかったら揉み甲斐もあるだろうに。
こんなペッタンコな胸じゃ、きっと翔も触りたいとも思わないだろう。
だからお父さんの心配するようなことにはならないと思うんだけどな。
西条のおじさんが中1でしちゃったのは、やっぱりおばさんが年上だったからだと思う。
中1同士はいくらなんでも無いと思う。
「…佐菜?お前の番だぜ?」
「あ、うん」
いつの間にか彼は打っていたらしい。
ジュースを机に置いて、私は次の一手を打つ為に碁石を掴んだ――
「1目半負けかぁ…」
整地をしてみると、私の1目半勝ちだった。
翔が悔しそうに口を尖らせた。
こういう表情はまだまだ子供っぽい。
「もう一局打ちたいけど、ちょっと休憩するか〜」と翔が背伸びする。
「そうだね」
「父さん、母さん達何時に帰って来るの?」
翔がおじさんに尋ねた。
「んー、あと一時間くらいちゃう?」
「なら急がないとな。皆が帰って来たら煩くて対局どころじゃなくなるし」
「おばさん達どこに行ってるの?」
「おじいちゃんち」
翔は4人兄弟だ。
小4の弟、小1の妹、そしてこの前生まれたばかりの妹がもう一人。
翔に兄弟が多かったから、私は尚更羨ましかった。
でもあと2ヶ月で私にも弟が出来る。
楽しみだ。
再びニギって対局をスタートさせた時に、おじさんがトイレの為かリビングを出て行った。
「佐菜」
「なに?」
碁盤から顔を上げると、チュッとキスされた。
「翔……」
「やっと父さんがいなくなったから」
翔が悪戯に笑う。
「すぐ帰ってくるよ?」
「うん。じゃあもう一回だけな…」
もう一度、今度はお互い目を閉じてキスをした――
NEXT
もちろん西条は気を利かせて退出ですよ〜