●GO!GO!SANA 5●
自宅のリビングで、父親と彼氏が向かい合って座っている。
父は彼をタイトル戦並みに睨み付け、彼はまるで敗者のように項垂れていた――
コトの発端はほんの10分前。
10分前にお互いの気持ちを確認しあって、晴れて恋人同士となった私と翔。
抱き締め合って、キスもしたその時――近付いてきた足音が止まった。
「……佐菜?」
聞き覚えのある声に慌ててキスを解いて振り返ると――自分の父親がいた。
で、直ぐ様家に連行された私達は、今こんな状況だ。
「お父さん、私達…付き合うことになったの」
「なった?じゃあ今まで付き合ってなかったわけか?」
「う、うん…そう」
「付き合い始めたばかりなのに、もうキスしたってことか?」
「それは…そうだけど。別にキスくらいいいじゃない…。お父さんだって、お母さんと小5の時からしてるんでしょ?彩おばさん言ってたよ…?」
「な…っ」
くそ、彩の奴余計なことを吹き込みやがって…と父はブツブツ言っている。
「佐為、もういいじゃない…。二人とも中学生なんだし」
とお母さんが助け船を出してくれる。
「駄目だよ精菜。こういうことは最初にちゃんと決めておかないと。西条は初デートで金森さんと最後までしちゃってるんだからな、恐ろしい」
「でも翔一君も同じとは限らないでしょう?」
「いいや、同じだよ。絶対遺伝してる。顔を見れば分かる」
両親のヒソヒソ話が聞こえてくる。
ちょっと衝撃だった。
え、翔の両親が交際を始めたのって、確か中1…だよね?(姉さん女房だからお母さんは中3?)
初デートでって…本当に?
私の顔は真っ赤になってしまった。
そうか……そうだよね。
付き合うことをOKしたんだから、いずれは私と翔もああいうことをする日が来るんだ……
「翔一君」
「あ、はい…」
「100歩譲ってまぁキスくらいは認めてあげるけど」
「…ありがとうございます」
「でもそれ以上の関係になるのは、君が七段になってからにしてもらおうか」
「な、七…ですか」
ギョッとなる。
「お父さん本気じゃないよね?」
「本当は僕に勝ったらと言いたいところを譲歩してあげるよ」
「あげるよじゃないよ!七段なんて一体いつになるか…」
「僕は14でなった」
「お父さんは異常なんだって!だって翔一君のお父さんが七段になったのって、24くらいでしょ?」
「じゃあ24までお預けだな、はは」
「バカじゃないの?!24なんて結婚する年齢じゃない!」
「言っておくけど、結婚は僕に勝つまで絶対に認めないからな!話は以上、じゃあ翔一君気を付けて帰るように」
言いたいことだけ言って、父は二階に上がって行ってしまった。
私も翔も茫然となる。
「七段かぁ…いつになるかな」
翔が頭を掻いている。
「ごめんね…様子見てお父さん説得するから」
「いや、いいよ。佐菜のお父さんの気持ちも分かるから。俺の父さんと仲がいい分、やっぱり心配なんだと思う」
「でも七段だよ?」
「リーグ入りすれば一発だよ」
「それはそうだけど……」
「佐菜と交際するんだから、そのくらいの覚悟は出来てる。京田さんとこは、佐菜のおじいちゃんに勝つまで交際も認めて貰えなかったんだろ?それに比べたらマシだよ」
「そうかなぁ…」
「キスは許して貰えたしな」
翔がチュッと私の唇に軽くキスをしてきた。
あまりの不意打ちに、私の顔は直ぐ様また真っ赤になった。
確かにこの早さ……お父さんの心配する気持ちも分かる気がした。
「とりあえず、4月から俺らもようやくプロだし。頑張ろうな」
「そうだね」
「あ、その前に新初段シリーズあるな。俺の相手誰になるんだろう」
「お父さんだったりしてね」
「はは……笑えないんですけど」
私は誰と打つことになるんだろう
楽しみだ――
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佐為は中3の11月に名人リーグ入りを果たして七段になりましたよ★
(そんでもって、高3の4月に十段奪取して八段に、11月に名人奪取して九段になってますよ★)
西条は24歳の時に本因坊リーグ入りを果たして七段になりましたよ★
(そんでもって、31歳の時に150勝して八段になってますよ★現在八段の西条です)