●GO!GO!SANA 4●





プロ試験を私は順調に勝ち進んだ。

最後の一局を残して今まで全勝。

窪田君も全勝。

ついに今日、決着がつく。

もうプロ試験の合格は決めているけど、絶対に勝ちたい。

勝って全勝でプロになりたい――父のように。

私は前に座る対局相手に、父譲りの鋭い視線を向けた。



「「お願いします」」



パチッ パチッ パチッ




さすが院生1位、さすが棋聖の息子。

めちゃくちゃ強い。

でも私だって名人の娘だ。

しかも父方は曾祖父も祖父母も父も棋士の棋士一家。

母方だって祖父も棋士、母も元プロ棋士だ。

棋士の血は私の方が絶対に濃いはず。

絶対に負けない。





パチッ……





終盤に私が放った勝負手。

窪田君が目を見開いて、長考し出した。


そしてしばらくして

「負けました…」

と頭を下げてきた。



勝った……!!






「おめでとう」


対局場を出るとたくさんの人からお祝いの言葉をかけられた。

もちろん負けた窪田君にも。

そして翔にも。

今年のプロ試験はこの三人が合格となった。

(後から聞いたんだけど、今年は厄年だったらしい。何か怖そうな名前だ)









「佐菜、一緒に帰ろうぜ」

「うん」


棋院から家に着くまでの30分、私は翔と並んで歩いた。

プロ試験が終わった。

ということは……翔にあの返事をしなくてはならない。

緊張する。

翔もちょっと意識してるのか、いつもより口数が少ない。

家までもう少しのところで、翔の足が止まる。



「…佐菜、あの話…考えてくれた?」

「……うん」

「じゃあ答え聞かせてもらえる?俺はずっと前から佐菜が好きだった。佐菜は俺のこと…どう思ってる?」

「……」


私は本当はまだ自分の気持ちがよく分かっていない。

でもこれだけはハッキリ言える。

翔を誰にも渡したくない。

これからもずっと私の隣にいてほしい。


だから……ごめんね、お父さん――




「私も翔が好き。私と付き合ってくれる?」

「………本当に?」

「うん」

「夢じゃないよな?」


私は翔の頬をつねってやった。


「痛い?」

「うん…めちゃめちゃ痛い」

「じゃあ夢じゃないね」

「佐菜っ!!」


翔に抱き締められる。

私の体なんてすっぽり収まってしまうくらい、彼は成長していた。


いつの間にか大きくなってしまった私の幼なじみ。

最初は戸惑ったけど、でも、こんな彼も悪くない。

今後は一緒に成長していこう。

恋人としても、プロ棋士としても。



私と彼は、家から100メートルのその場所で、お互い初めてのキスをした――









NEXT