●GO!GO!SANA 3●
プロ試験が始まった。
院生でない私達はまずは外来予選からのスタートだ。
私も翔も難なく突破した。
次は合同予選。
これも無事全勝で合格。
(翔は私に負けて一敗)
そして迎えたプロ試験本戦。
私も翔も順調に勝ち進んで行った。
だけど10局目で、翔が私以外の人から初めて黒星を付けることになる。
相手は院生1位、窪田蓮、小学6年生。
そう――あの窪田棋聖の息子だ。
「参ったな…ここまで強いと思わなかった」
対局後、私の部屋で一緒に検討を始めた。
翔は少し落ち込んでいた。
私は最終局で彼とあたる。
私は勝てるだろうか。
父は棋聖の挑戦者にも何度かなったことがある。
でも一度も奪取出来ていないのだ。
父が七大タイトルで唯一取れていないのが、窪田棋聖がかれこれ15年は保持している棋聖位。
そんな彼の息子に、果たして私は勝つことが出来るだろうか。
(大丈夫……棋譜を見る限りでは私は負けてない。自分の力を信じて、いつも通り打てばきっと大丈夫)
「佐菜なら勝てるよ。頑張って」
「うん…ありがとう」
「……」
「……」
検討が終わり、私達は無口で石を片付け出した。
今自分達が置かれている状況を思い出したからだ。
そう――私の部屋で、二人きりなんだ。
告白されてから、初めての密室での二人きり。
たまに手が触れて、ドキリと胸が跳び跳ねる。
チラリと翔の顔を見た。
頬が赤くなっていた。
そういう私もきっと真っ赤だ。
「佐菜……」
石を片付けていた手を握られる。
彼のドキドキが伝わってきた。
「翔……」
私達は見つめあった。
そして彼の顔がゆっくり近付いて来たまさにその時――
コンコン
と誰かが私の部屋をドアノックしてきて、私達は慌てて離れた。
「あ、はい。ど、どうぞ?」
ドアが開いた向こうにいたのは――父。
(いつの間にか仕事から帰ってきてたらしい)
「翔一君、いらっしゃい」
と笑ってない笑顔で父が翔に挨拶した。
「コーヒー置いておくね」
と私の勉強机にトレイごとガシャンと乱暴に置いた。
(こぼれてないかな?)
「今日窪田さんとこの蓮君に負けたんだって?」
「あ……はい」
「僕にも並べて貰える?」
「も、もちろんです……」
翔が父のあまりの威圧感に、たじたじしながら並べ出した。
――そういえば。
そういえば、私が小3になった頃だろうか。
父に「翔一君とは親しくなりすぎないように」と言われたことを今更ながら思い出した。
あの頃は意味が分からなかったんだけど、今なら父の言った意味が分かる気がした。
要するに、『西条の息子なんて絶対に手が早いから気を付けろ』と言いたかったんだろう。
もし父が来なかったら、私達はおそらく唇を合わせていた。
確かに……手が早そう?
(まだ正式に付き合ってもないのに、しそうだったもんな……)
ちなみに翔は父にめちゃくちゃ指摘しまくられていた。
可哀想なほどに。
でもって更に対局まで申し込まれ、コテンパンにやられていた。
一時間半後、フラフラしながら翔は帰って行った。
「お父さんたら…。私もう中1だよ?心配しなくても大丈夫だから」
「男は中1あたりから危険なんだよ」と父は悟っていた。
(何があったんだろう…?)
「とにかく、もう二度と翔一君を部屋にあげないこと。打ちたいなら一階の和室で打ちなさい」
「……はーい」
父は今度西条に会ったら文句言わないとな、とかブツブツ言っていた。
そしてリビングにいる母の横に座った途端笑顔になって、母のお腹を撫で出した。
「あと3ヶ月かぁ…。楽しみだね、精菜」
「うん」
もう性別は分かっていて、今度は男の子らしい。
弟だ。
そういえば翔のお母さんも春に女の子を産んだばかりだ。
弟とは同級生になる。
また私と翔みたいに、きっと幼なじみとして育つんだろうな。
私も3ヶ月後が楽しみだ――
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