●GO!GO!SANA 16●
「おはよう、佐菜。弟生まれたんだって?」
「おはよう。そうなの〜!もう超可愛くてvv 今日も放課後病院寄っちゃおうかなぁ♪」
新学期が始まった。
翔と一緒に学校に向かいながら、私はあまりの弟の可愛さをノロケてしまっていた。
「俺も行ってもいい?」
「残念でした〜、病院は家族しか入れないんだよ」
「そっかぁ…残念」
「明後日には退院するから、そしたら家に見に来たら?」
「うん、そうする」
3日前に無事二人目を出産したお母さん。
私はお父さんと一緒に毎日のように病院に通いつめていた。
弟はちっちゃくて全てが豆粒みたいで、いくら見ていても全く飽きない。
泣き声なんて天使の歌声に聞こえる。
食べちゃいたいほど可愛いとはまさにこのことだろう。
もう私は弟にメロメロだvv
「どっち似?」
「お父さんかな。ヒカルおじいちゃんが、お父さんが生まれた時にそっくりって言ってたから間違いないと思う」
「名人似の男の子かぁ〜将来が楽しみだな」
「変な虫がつかないよう私が守ってあげないと!」
「はは…。佐菜すっかりブラコンじゃん」
「だって念願の姉弟だもん!翔にはこの気持ちは分かんないよね」
「うん、分からない。でも赤ん坊が可愛いのは分かるよ。俺も妹めちゃくちゃ可愛いし」
「奈保ちゃん可愛いもんね〜」
四人兄妹の翔。
去年の4月に生まれた一番下の妹、奈保ちゃんはまだ8ヶ月だ。
――そういえば
その奈保ちゃんが生まれた頃が、私の両親が一番険悪ムードだった気がする。
お母さんは隠れてしょっちゅう泣いていた。
一度両親の口論も見てしまったこともある。
『もっと私の為に時間取って…!!』
と泣き叫ぶお母さんに、お父さんは
『だからごめんって。分かったから…』
と何とかお母さんを宥めようとしていた。
そのすぐ後、両親はGWの間私をおじいちゃんちに預け、二人だけで旅行に出かけていった。
帰って来た時、両親からはラブラブオーラが溢れていて、その後すぐにお母さんの妊娠が判明したわけだけど。
今思うと……お母さんは不妊に悩んでたんだと思う。
それなのに仲のいい金森家には4人目まで生まれて、ちょっとヒステリー気味になってたのかもしれない。
もちろん、出産してからも両親のラブラブ度は相変わらず継続している。
見ているこっちが恥ずかしくなる程に。
(もしかしたらもう一人くらい生まれるかも?なーんてね)
「佐菜、そういえば新初段シリーズの連絡来た?」
「――うん」
昨日――棋院から連絡があった。
私の新初段シリーズの相手が『塔矢アキラ王座』に決定したと。
来週末にシリーズ第一弾として対局することになる。
ちなみにおばあちゃんが新初段シリーズに出るのは久しぶりらしい。
前に出たのは何と23年前――彩おばさんの時だ。
「翔は連絡来た?」
「うん……昨日」
「え?本当?誰?誰?」
「…………進藤名人」
「ぅわぉ…」
お父さんは私には内緒で、しれっと翔の相手に立候補していたらしい。
ちなみにお父さんの新初段シリーズの相手は精次おじいちゃんだった。
当時もちろん既に交際していた両親。
あの時のおじいちゃんの気持ちを、今お父さんは痛感しているのかもしれない。
「翔、そういえばお父さんの時は賭け碁したらしいよ」
「え?」
「翔も賭けてみる?」
「む……無理無理無理。勝てる気しないもん…俺」
「もう、そんな弱気でどうするの?お父さんみたいに彼女を賭けるくらいの意気込みでいかないと!」
「賭けれるわけないって!大人しく七段目指した方がよっぽど現実的だって!」
「もう…」
弱気な彼氏だ。
でも、普通はそんなものなのかもしれない。
恋人の父親と賭けれる中1がこの世にどのくらいいるのだろう。
お父さんはやっぱり普通じゃないのかもしれない…と私は思ったのだった。
「お母さん♪」
夕方。
私は学校帰りに病院に寄った。
お父さんは対局の日なので、部屋にいたのはお母さんと弟だけだ。
お母さんは授乳中だった。
「美味しそうに飲んでるね」
「そうね」
お母さんは巨乳なので、やっぱりおっぱいもたくさん出るんだろうか。
食事中の弟の頭を私は撫でてみた。
「可愛いvv」
「そうだね」
「私もたくさん飲んでた?」
「うん、もちろん」
「そっかぁ…」
授乳を終えた後、ゲップをさせて。
そのあと弟が眠るまで優しく抱っこしてあげるお母さん。
とっても幸せそうだ。
「お母さん、名前は決まったの?」
「うん、翼佐(つばさ)君よ」
「へぇ…!」
翼佐君かぁ〜。
じゃあ『つーちゃん』って呼ぼうかな♪
NEXT