●GO!GO!SANA 13●
「明けましておめでとう!」
新年が明けた。
元旦はヒカルおじいちゃんの家で行われる『進藤杯』に参加するのが恒例行事だ。
私が両親と到着すると、他の参加者もほぼ全員揃っていた。
毎年16名で行われるトーナメント。
進藤ヒカル碁聖。
塔矢アキラ王座。
進藤奏七段。
進藤佐為名人。
進藤佐菜新初段。
京田昭彦天元。
進藤彩七段。
京田誠。
京田航。
緒方精次九段。
この親戚10名にプラスして、
西条悠一八段。
金森翔一新初段。
金森涼一。(翔の弟、10才、院生)
社清春九段。
窪田蓮新初段。
それにあともう一人…50歳くらいの知らないオジサン。
トーナメント表で名前を確認すると、『加賀鉄男』と書かれていた。
(こんな人プロ棋士にいたっけ?ヒカルおじいちゃんと仲良さそうに話してるから、おじいちゃんの友達なんだろうか?)
「明けましておめでとう、佐菜」
「翔、おめでとう。今年もよろしくね」
「うん、よろしくな」
翔とお互いペコリと挨拶した。
ちなみに蓮君は母親の内海女流に付き添われてやって来たみたいだった。
キッチンでトーナメントに参加しない私の母や葵おばさんと一緒に、内海女流が談笑しながらお茶の準備をしているのが見えた。
(お茶菓子は絶対昭彦おじさんのお母さん作だと思う)
その蓮君は翔の弟の涼一君とダベっている。
蓮君も院生出身だから、院生の涼一君とは顔見知りみたいだった。
年齢の若い順からくじを引いていき対戦相手を決める。
私の一回戦の相手は――昭彦おじさんに決まった。
「よろしく、佐菜ちゃん」
「よ…よろしくお願いします!」
碁盤を挟んで一緒に座り、ドキドキしながら碁笥を手に取った。
年が明けて初めての対局が昭彦おじさんとだなんて緊張する。
もちろん互先ではない。
タイトルホルダーと新初段との対局だから、新初段シリーズと同じ逆コミ6目半+お年玉2目のハンデだ。
準備が出来たところで8組16名全員が同時に頭を下げた。
「「お願いします」」
パチッ パチッ パチッ…
パチッ パチッ パチッ…
すっかり静まり返った部屋に、しばらく碁石の音だけが響く。
この進藤杯は早碁の大会だ。
持ち時間はたったの10分、使いきると30秒未満で打たなければならない。
私は早碁は得意な方だけど、昭彦おじさんだってもちろん得意中の得意。
(何せ去年の早碁オープンの覇者なんだから…)
計8目半のハンデもあったはずなのに、最後はギリギリの半目勝負になってしまった。
何とか勝ちはしたけど、でもそれはきっと昭彦おじさんが私に花を持たせてくれたからだと思う。
毎年そうだ。
一回戦を勝てば賞金という名のお年玉が貰えるこの大会。
大人達は必ずと言っていいほど、子供達に勝ちを譲ってくれるのだ。
手加減されるのはちょっと悔しいけど、お年玉は欲しいので大人しく譲られることにする。
「えーと、二回戦は加賀さんとかぁ…」
トーナメント表を確認すると、何と七段の彩おばさんに互先で中押し勝ちをしていた。
一体何者なんだろう?
「佐菜、京田先生に勝ったんだ?」
「うん。翔は?」
「勝ったよ」
翔がトーナメント表に丸印をして、中に2半と書き込んだ。
どうやら奏おじさんに2目半で勝ったらしい。
「佐菜は二回戦、加賀先生となんだな。頑張れよ」
「え…?『先生』ってことは、やっぱりプロ棋士なの?」
「は?もしかして佐菜、加賀九段知らないのか?」
「う、うん…」
く、九段?!
私が九段にまで登り詰めた棋士を知らないはずがないんだけど……何故か全く記憶にない。
翔に笑われてしまった。
「まぁ佐菜は囲碁しか興味ないもんな」
「どういう意味…?」
「加賀先生は将棋のプロ棋士なんだよ」
…………え…………
「将棋……?」
「うん。タイトルだって確か5期くらい取ってたはず」
「そ、そうだったんだ…」
「囲碁もかなり打てるって聞いてたけど、進藤彩先生に互先で勝つって普通にすげーよな」
翔が感心している。
確かに囲碁も将棋も両方嗜む棋士は多いと聞く。
私は駒の動き方すらよく分からないけど……
程なくして二回戦が始まることになった――
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