●GO!GO!SANA 12●





「え!佐菜、窪田棋聖の研究会行ったんだ?」

「うん♪」



学校も冬休みに入った。

今日はクリスマス・イブということで翔と一緒に朝から出かけている。

午前中は水族館に行ったんだけど、この水族館は私の両親が初デートをした思い出の場所らしい。

当時中1と小5だった両親。

ちょうどプロ試験に合格した直後の話だそうだ。

水族館のあと駅まで戻ってきて、今はカフェでお昼ご飯中。

そこで先日窪田棋聖の研究会に行ったことを翔にもウキウキと話してみた。


「いいなぁ。棋聖とも打った?」

「うん!当たり前だけどめちゃくちゃ強かった〜」

「はは、そりゃな」

「息子の蓮君とも打ったよ。また私が勝った♪」

「へー」

「あ、そういえば蓮君ね、海王受験するらしいよ」

「へぇ…そうなんだ」

「うん。受かったらいいね」

「……」


翔が少し面白くなさそうな顔をする。

どうしたんだろう?


「…佐菜、何で窪田君のこと、下の名前で呼んでるんだよ?」

「え?何でって……皆がそう呼んでるから」

「皆って?」

「お父さんとか…奏おじさんとか……昭彦おじさんとか?」

「おじさん達は窪田棋聖に近いから息子を名前で呼ぶのは普通だと思うけど。佐菜が同じように呼ぶのはおかしいと思う。たいして親しくもないのに…」

「そうなの?」

「向こうは佐菜のこと、『佐菜ちゃん』なんて呼んでないだろ?」

「うん…進藤さんって呼ばれた」

「だろ?佐菜も窪田君って呼んだ方がいいと思うよ」

「うん…分かった」


私がどう呼ぼうが勝手じゃない、とも思ったけど……ここは翔に大人しく従うことにする。

こんなことでケンカになっても嫌だし。

それに、彼氏からしたら他の男の子のことを彼女がファーストネームで呼ぶのは確かに面白くないかもしれないと思ったからだ。

逆の立場で、もし翔が他の女の子を下の名前で呼んだりしたら……ちょっと嫌だからだ。



「翔、昼からどうする?打つ?」

「打つって……どこで?」

「私の部屋…はダメって言われたから、一階の和室?それか翔んちの…リビング?」

翔が頭を掻いた。

「それだったら今日は打ちたくない…」

「…だよね。じゃあ…映画でも観に行く?もしくはお買い物?」

「映画って今どんなのしてるんだろ」


翔が携帯で検索し出した。

私の方もしてみる。

ハリウッドのアクションものから始まって、ファンタジーや、恋愛もの、アニメまで色々していた。

でもどれもいまいちピンと来ない。

翔も一緒だったみたいで、「映画はやめよう」と言ってきた。


「別に無理して何かしなくてもいいよ。その辺ブラブラしよう。佐菜と一緒にいられるだけで嬉しいし」

「うん…分かった」


自分の頬が少し赤くなるのが分かった。

今までも翔と二人で出かけることはあった。

でも今まではただの幼なじみ、ただの友達、むしろ姉弟みたいな感じだった。

でも今日は……嫌でもデートなんだと、自分達が恋人同士なんだと思い知らされる。

さっきの水族館でもそうだったけど……翔と手を繋いだからだ。

たったそれだけのことなのに、すごくドキドキした。

ランチを終えて、また手を繋いで適当に歩く。

何だか恥ずかしくて会話が全然頭に入ってこない。

チラリと翔の顔を見上げた。

同じように見てきた彼と目が合う。


「な、何か……恥ずかしいね」

「だな」

「やっぱり……手、離す?」

「ううん」

「そ、そう?」

「うん…」



ドキドキしながらも一日手を繋いで過ごした。

もちろん帰り際にはまたキスもした。


彼氏としての翔と過ごした初めてのクリスマス。

これからもずっと一緒に過ごせればいいなぁ…と思った――









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