●GO!GO!SANA 11●
お茶会の後、もう一局それぞれ打つことになった。
「進藤さんは俺と打とうよ」
と蓮君に対局を申し込まれる。
碁盤を挟んで向かい合って座った後、彼が周りに聞こえない程度の小さな声で話しかけてきた。
「――で?本当は何しに来たの?」
「え…?」
「もしかして偵察?」
「べ、別に…」
「父さんと打ちたかったの?いくら姪だからって、京田先生利用するなんて卑怯だよな」
ムッとした。
「利用なんてしてない」
「どうだか」
「……」
どうしてこんなトゲのある言い方をするんだろう。
私のこと嫌いなのかな?
プロ試験で私に負けたから?
「蓮君…私に負けたから悔しいんでしょ?」
今度は蓮君がムッとする。
「当たり前だろ。院生でもないくせに、全勝とかふざけてるよな。どんだけ環境に恵まれてるんだよ」
「羨ましいんだ?」
「……別に」
「正直になれば?」
「お前に正直に言ったところで、進藤門下の研究会に参加出来るわけじゃないだろ?」
「え…?」
進藤門下の研究会とは、祖父が開いている父と昭彦おじさんの3人だけの研究会のことだ。
この3人だけで七大タイトルのうちの5つを占めるというだけあって、一度は参加してみたいと思ってる棋士は多いと聞く。
ただ、父の許可が下りないと参加は出来ない。
そして父が許可することは滅多にないのだ。
確かに私に正直に言ったところで参加させてあげることは出来ない……
(何せ私ですら参加したことがないんだから…)
「蓮君…お父さんと打ちたいの?」
「そりゃ打てるものなら打ちたいよ。進藤名人といえば今の囲碁界で1、2を争う実力者じゃん」
「ふぅん…」
「でもそれより一緒に検討とかしてみたい。考え方とかカッコいいし、実は昔からちょっと憧れてる。父さんには内緒だけどな」
「え?そうなんだ…」
「院生で進藤名人に憧れてる奴は多いよ。やっぱり色んな記録持ってるし、普通に尊敬するよ」
「……」
「だからその進藤名人から碁を教わってるお前がすげー羨ましい。それなのにうちの研究会にまでやってくるなんてどういうつもりなんだよ?」
「……」
どういうつもりと言われても……ただの潜入捜査だ。
窪田棋聖の研究会が見てみたかっただけ。
棋聖とも打てたし、私はもう満足だ。
でも、それだとちょっと不公平かな?
「じゃあ……蓮君も今度ウチに来る?」
「……え?」
「お父さんと打ちたいんでしょ?あ、でも年末はお父さん忙しいから時間取れるかなぁ…」
今だって王座戦の真っ最中な父。
年末もイベントごとが多いし、後援会を始めとするあちこちの忘年会にも参加しているから、毎年今ぐらいからめちゃくちゃ忙しい時期に入る。
となると年始か…………あ。
「蓮君も『進藤杯』参加したら?」
「え、何それ?」
「おじいちゃんちで毎年元旦にある進藤家の打ち初め大会だよ〜。碁を打つ親戚がとりあえず全員集まってトーナメントするの!」
「へぇ…そんなのあるんだ。でも俺親戚じゃないけど?」
「大丈夫だよ!翔も西条のおじさんも違うけど毎年参加してるもん。今年は和谷先生もいたし、去年は倉田先生だって来てたよ」
「何かめちゃくちゃレベル高そうな大会だな…」
「大丈夫!ハンデ付くから!私なんて去年3位だったから賞金という名のお年玉、8万もゲットしちゃった♪」
「8万?!」
ベスト8までは賞金が出る。
1位が10万で、一つ順位が下がるごとに賞金も1万ずつ減っていく。
進藤杯という名だから、もちろん賞金のスポンサーはヒカルおじいちゃんだ。
「ちなみに今年優勝したのは、昭彦おじさんの息子の誠だよ。2位がアキラおばあちゃん」
「へー。進藤名人は?」
「一回戦負け。奏おじさんにコミ無しのハンデだったからね」
「へー」
「でも例えすぐ負けちゃっても、結局負けた者同士でまた好き勝手皆打ってるし、楽しめると思うよ」
私は横で打ってる昭彦おじさんに
「進藤杯、蓮君が参加しても問題ないよね?」
と尋ねた。
「うん、大丈夫だと思うよ。俺から先生に話しておくよ」
「あ、ありがとうございます。お願いします」
と蓮君はペコリと頭を下げていた。
「京田君、すまないね」
と窪田棋聖もお礼を言っていた。
来年こそ私は優勝を目指す。
でもって絶対に10万ゲットしてやるんだ!
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