●SAKURA 3●
夏の大会、海王女子囲碁部は見事区大会では優勝した。
都大会でも3位に入り、全国大会にも出場した。
団体戦は2勝しなければならない。
私一人だけが勝ってもダメだった。
結局全国大会はベスト16止まり。
私の最後の大会は8月に終わった。
一方、進藤君はプロ試験の予選を難なく突破し、本戦も始まった。
私も棋院に女流棋士採用試験の申込をした。
必要な棋譜は3枚。
囲碁部の顧問の先生、男子の部長、副部長と打った棋譜を提出した。
そして見事に棋譜審査は合格。
私は女流のプロ試験を受けれることになった。
一方、進藤君も全勝で合格を決める。
流石だと思った。
「さくら、ちょっとマズイことになったよ」
「え?」
「進藤君の妹がプロ試験落ちた。てことは女流の方に回ってくるわ」
「進藤君の妹って強いの…?」
「なんせ院生1位だし、プロ試験も4位で終わったしね…。どうする?」
「私とどれくらい差があるんだろう…。今年は諦めて来年に備えた方がいい?」
「そうねぇ…」
「囲碁部続けて大丈夫かな?私も院生なった方がいいのかな?」
「うーん…私じゃ分かんない…」
「……だよね」
「仕方ない、嫌だけどアイツに頼むか」
「え?」
「進藤よ」
「ええ??」
「ちょっと待ってて、アイツ連れてくるから」
「ええ??」
待つこと5分。
朋美ちゃんが本当に進藤君を連れてきて驚いた。
ど、どうしよう……
朋美ちゃんが私が女流のプロ試験を受けてることを説明してくれる。
「院生…じゃないんだよね?」
「あ、はい。外来から受けてます」
「この土日の結果は?」
「全部で4戦して、一応全部勝ちました」
「へぇ…すごいね」
ほ、褒められてしまった。
ど、どうしよう……
胸のドキドキがヤバい……
朋美ちゃんのおかげで私は進藤君と一局打てることになった。
4年ぶりに叶った、念願の対局だ。
全力を出そうと心に誓った。
パチッ パチッ パチッ……
15分打って50手まで進んだところで、進藤君の手が止まる。
私の棋力はもう分かったらしい。
最後まで打って貰えなかったのは残念だ。
「本気で来年合格を狙うなら、一日でも早く院生になった方がいい」
そうアドバイスをくれる。
そうだよね……じゃあやっぱり院生試験受けようかな。
でも院生になったところで、進藤君と打てるわけじゃない……
私は一世一代の告白のつもりで進藤君にお願いした。
「進藤君…もしよかったら、たまに私とも…打ってくれないかな?」
進藤君の空気が一気に変わったのが分かった。
失言だったと悟る。
今までプロ棋士になる者として純粋にアドバイスしてくれようとしたのに、私がぶち壊した。
進藤君はモテる。
だからこそ…自分に好意を持つ女子には冷たい。
「彼女でもないのに特別扱いは出来ない」
そうキッパリ断ち切られる。
彼女でもないのに――と。
じゃあ、進藤君の彼女になれる人ってどんな人?
どんな人になれば特別扱いしてもらえるんだろう……
その謎は院生になれば直ぐに解けた。
1月――年が明けて私は院生になった。
その院生研修初日で知らされることになる。
休憩時間に控え室で皆と昼食をとっていた時だった。
「俺、昨日進藤君と緒方さんが神社でデートしてるとこ見たぜ」
「マジで?初詣?」
「そうじゃないかな?緒方さん振袖着ててめっちゃ綺麗だったし、進藤君も横でにこにこしてたよ」
「あの進藤君が?やっぱ彼女の前だとアイツでも笑うんだな」
私の目の前は真っ暗になった。
進藤君て彼女いたんだ……
緒方さんて……緒方棋聖の娘の緒方精菜さん?
一緒にプロ試験受かった?
ああ……私、全然敵わないや……
何一つ勝ってるところがない……
おまけに誰一人進藤君と緒方さんのことを突っ込む人はいなかった。
全員知ってたの?
公認なの?
落ち込んだまま翌週始まってしまったプロ試験、本戦。
何とか勝ち星は掴み続けていたけど、第五局で打ちのめされることになる。
相手は進藤君の妹だった。
さすが院生1位。
めちゃくちゃ強くて、私は午前中の間に投了せざるを得なかった。
落ち込んだまま石を片付けてる時、妹さんが私の耳に囁いた。
――弱すぎ――
――プロなんて絶対無理でしょ――
――さっさと諦めれば――
私のメンタルは地の底にまで落ちた。
それでも翌日の試験を休まなかった私は偉いと思う。
負けちゃったけど。
予選の時は中押し勝ちした相手に中押し負けしたけど。
プロ試験の結果はすぐにホームページで曝される。
「さくら二連敗したの?大丈夫?」
朋美ちゃんが心配になって家にまで来てくれた。
「……大丈夫じゃない……」
「え?」
「もう……辞めようかな……プロ試験も……院生も……」
「ちょ、アンタ何があったの??」
「……」
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