●ROOM SHARE 6●
「今日は何を作ろうかな…」
手合いから帰った後、僕はダイニングテーブルでパラパラと料理の本をめくっていた。
僕ら4人はただのルームシェアであって家族ではない。
なので、食事も各自で好きなの買って作ってという感じだ。
でも、多めに作っておいて『よかったら食べて』とでも書いたメモを貼って冷蔵庫に入れておくと、気がついたらなくなっている。
その瞬間が少し嬉しいので、僕は料理をする時は常に多めに作るようにしていた。
「今日はカレーでいいか」
カレーなんてのはむしろ一人分だけ作る方が難しい。
野菜も肉も一つずつ使っただけで自然と3〜4人前になる。
ご飯は何合炊こうかな。
残ったら冷凍すればいいし、3合炊いちゃおうかな。
もう少しで完成というところで玄関のドアが開く音がした――
「んー、いい匂い」
匂いに誘われて進藤がキッチンに直行してきた。
「塔矢カレー作ってるの?オレの分もある?」
「あるけど…」
「やりぃ!」
とガッツポーズをした彼は、早速器なりスプーンなり食器棚から出してきた。
「…あ、そういえばさ、和谷と伊角さん、二人とも今日は外泊だってさ」
「ふぅん…そうなんだ」
カレーを掻き交ぜながら頷いた。
…ん?
待てよ。
ということは……今夜まさか進藤と二人きり?
そう思うと急に緊張してきた。
「いただきまーす!」
「いただきます」
向かいあって二人きりでとる夕食は何だか新婚みたいでドキドキする。
と言っても、進藤の顔はずっとテレビに向いてるけど。
「…塔矢さぁ」
「なに?」
「今日も、風呂…入るの?」
「もちろん」
「ふーん。オレもたまには夜入ろうかな」
「?」
「でさ、どっちが先に入る?」
「あ……」
この前僕が変なこと言ったから気にしてるのかな。
でも、進藤なら別に後でも先でも構わないんだけど。
むしろ一緒でも………なーんて。
「オマエ先入る?綺麗な方がいいだろ」
「じゃあそうするよ。髪の毛とか落ちたらごめん」
「はは」
口には出せないけど、髪の毛よりもっと気をつけなくちゃいけないのが下半身の方だ。
湯舟からあがった後、ちょっと念入りにチェックしてしまった。
いや、むしろ一本ぐらい落としておく方がいいのかも?
それを見つけた進藤は嫌でも想像するだろう。
僕を女として今夜意識してくれるかな?
この前胸を触らせた時、意外とノってきたし。
その時の彼に触れられた感触を思いだして、体が熱くなってきた――
カチャ
「…進藤、出たよ」
「え?あ、うん…。じゃあオレも入ってくるっ」
何やら慌てて部屋から出て行った。
…しまった。
ノックするをするの忘れた。
今、何か枕の下に隠したよね?
小さい何か。
あの大きさ、まさか……
そうっと枕を上げてみた。
予想が確証になって思わずベッドに突っ伏してしまった。
これってそれってこれって………
やだやだやだ。
進藤の奴、通りで珍しく夜にお風呂に入ると思った。
する気満々じゃないか。
まだ付き合ってもないのに、というのは今更?
そうだね、彼に胸を触らせて、誘ったのは僕だ。
でもでもでも!
あああ…どうしよう……
〜♪〜〜♪〜〜♪
♪〜〜♪〜♪〜〜♪
「…携帯?」
碁盤の横に置いてあった彼の携帯が鳴った。
メールじゃなくて着信。
取った方がいいのかな………と悩んでるうちに切れた。
♪〜♪〜〜〜♪〜
〜♪〜〜♪〜♪
と思ったら、僕の部屋からも着信音が聞こえた。
慌てて部屋に戻る。
誰??
「………げ」
表示されている名前を見て、ものすごく嫌な予感がした。
諦めて通話ボタンを押す。
「…はい、塔矢です」
『おー!塔矢!久しぶりやなぁ』
甲高い関西弁―――社だ。
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