●ROOM SHARE 2●
「進藤さん達によろしくね」
「はい」
両親に見送られた後、僕は今日から新しく住む部屋へと向かった。
進藤と和谷君、伊角さんとの四人暮らし。
一体どんな感じなのか想像もつかない。
楽しみでもあるし…不安でもある。
なぜこんなことをOKしてしまったのか、未だに自分でも理解出来ない。
ただ、僕も家を出てみたかったのかもしれない。
チャンスだと思ったのかも。
それに………ちょっと嬉しかった。
進藤が僕を誘ってくれたことが。
常識的に考えたら異性の僕を誘うなんてことありえないのに。
本当に彼は僕を女として見てないのだろうか。
それはちょっと…いや、かなりショックだ。
でも、一緒に住めば彼の気持ちも変わるかも?
まずは女だってことを分かってほしい。
まずはそこからだ―――
「塔矢、やっと来たー。荷物もう届いてるぜ?分かんないから適当に置いてもらった」
「ああ、すまない。後は自分で何とかするよ」
僕の部屋は入ってすぐ右の6畳程度の洋室。
少々狭めだが、クローゼットもあるし、あと置くものと言えば机とベッドぐらいなので特に問題はない。
そう―――ベッド。
念願のベッド生活が今日から始まるんだ♪
部屋のドアを開けると、目に飛び込んできたその大きな寝具にうっとりとなった。
これだけでもう幸せ。
それにベッドカバーとお揃いのカーテン。
同系色の絨毯。
ちょっとアンティーク調の机と椅子に、デザインの可愛いMac。
全てを並べてみると僕の部屋とは思えない程の可愛さで、我ながら上出来だと思う。
ああ、忘れてた。
これが一番大事なものなのに。
『碁盤』を部屋の中央に配置した――
「塔矢〜終わった〜?」
「ああ」
開いてるドアをわざとノックする進藤。
僕の部屋を覗いて…目が真ん丸になってる。
「すげ…オマエの部屋とは思えねー」
「女の子っぽいだろう?」
「ど真ん中の碁盤がちょっと浮いてるけどな」
「いいんだ。それより一局打たないか?」
「それはあと〜。先に昼メシにしようぜ。伊角さんがピザ頼んでくれたんだ」
「そういえば後の二人は?姿が見えないけど」
「今コンビニに買い出しに行ってくれてる」
進藤と一緒にリビングに行くと、まだ半分段ボールだらけで、とりあえず最低限必要なものだけ出されていた。
通販で買ったという安いダイニングセットやコーナーソファー。
ここでご飯を食べたりテレビを見たりするのかと思うと………うん、悪くないかも。
キッチンの方はほとんど手付かずで、皆の家から寄せ集めた食器だけが寂しそうに置かれていた。
ここは女の僕が仕切らないとダメかもしれない。
後で買い出しに行こう。
「進藤ー、買ってきたぜー。あ…塔矢だ」
「…どうも」
いきなり雰囲気が悪くなる僕と和谷君の間に、すかさず進藤と伊角さんが割って入る。
「もー、これから一緒に住むんだし、仲良くしてくれよなー」
「そうだぞ和谷。ほら、仲直りの握手」
「仲直りって…別に喧嘩してねーし」
「いいから」
伊角さんに言われて嫌々片手を出してきた和谷君。
僕も嫌々手を出す。
「…よろしく、塔矢」
「…こちらこそ」
二人が手を繋ぐ様子を見て、一瞬進藤が目を細めたのは誰も気付かなかった―――
「で?和谷買ってきてくれた?」
「おう!じゃーん」
コンビニの袋から出された物を見て、僕は目を見開いた。
「ア、アルコールじゃないか!何を考えてるんだキミは!まだ18のくせに!」
「今日ぐらい大目に見てよ〜アキラちゃん。ほら、オマエの分」
ほいっとチューハイを渡された。
「乾杯しようぜ!オレらのめでたい門出に」
「…今日だけだからな」
「おうっ」
それぞれが缶をプシュッと開けた。
「カンパーイ!これからよろしくな!」
こうして僕らのルームシェア生活が始まった―――
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