●ROOM SHARE 1●








「駄目よ。絶対に許しませんからね」





18になったオレはそろそろ家を出たいと思っていた。

棋院から遠くて通うのが大変なこともあるけど、一番の理由は自由になりたかったからだ。

だけど、母親に話した途端に却下されてしまう。


「食事や洗濯はどうするの?アンタ何にも出来ないじゃない」

「何にも出来ないからしたいんだよ。人間追い込まれないと行動しないじゃん?」

「最初はそう思ってても、ヒカルのことだからコンビニやお弁当屋さんに頼るのが目に見えてるのよ。洗濯ものだって溜まって……はあ、結局私がこの家とアンタの部屋を往復することになりそうだわ」

「…そんなこと……ない」


でもオレ自身、そうなりそうな予感がした。

自炊なんてたぶん続かない。

掃除だって洗濯だって怠けそうだ。

やっぱり結婚するまでこの家で大人しく母親の世話になってる方がいいのか。


……いや、ダメだダメだダメだ。

それじゃあなんにもしない父さんのようになっちまう。

母さんみたいに夫と子供の世話の為に生きれそうな女が、今の若い女連中の中にいるか??

奈瀬なんかいい例だろ。

絶対に家事は分担派だ。

何も出来ない、何もしない夫なんて、稼がなくなったら最後、熟年離婚されて終わりだ。

だから今から出来るようになっておかないと…!



「この話は終わり。アンタにはまだ一人暮らしは早いわ」

「待っ…――」


バタンッと台所から出ていってしまった。



はぁ…どうしたら許してくれるんだろうと考えながらオレも部屋に戻る。

一人暮らしはダメ…。

じゃあ二人暮らしなら?


例えば和谷と。

和谷なら、もともと今もしょっちゅうアイツの家に遊びに行ってるから、まずその手間がなくなる。

自由面は少し減るけど、一度家を出ればこっちのもんだし。

慣れてきたら和谷とお去らばすればいい。

母さんも、和谷と一緒に住むなら許してくれ……………いや待て。

和谷はオレと丸っきり同じタイプだ。

一人暮らししてるようで…実は実家に頼りっぱなし。

しかも母さん、一度差し入れに来て、見るに見兼ねて掃除始めてたし。

うーん……絶対に反対されそうだ。


じゃあ和谷はやめて伊角さんとか。

部屋は綺麗だし、料理もそこそこ熟してる。

伊角さんとなら………

うーん…ちょっと年が離れてて気を使いそうかも。


年が近いといえば越智だけど、一緒に住みたいとは思わない。


じゃあ塔矢?

確かに条件が一番いいのはコイツなんだけど、問題は女ってことなんだよな。

同居というより同棲になっちまう。





あーーーどうしよう。







段々考えるのが疲れてきて、気分転換にピッとテレビを点けた。

「……ん?」

偶然というか運命的にやってたのは最近のアパート事情とかいう番組。

京都の売れない物件がなぜ今満室なのか…とか。

東京のアパートの新スタイル…だとか。

にしてもこのスタイル……いいな。

大規模なルームシェア?


……あ、そうか。

この手があった。

二人暮らしも駄目ならそれ以上にしてしまえばいいんだ。

例えば4LDKぐらいのでかい部屋借りて、皆で住む。

二人だと相手に悩むけどこれなら一気に全部解決だ!





「和谷ー!伊角さーん!」


善は急げ。

すぐに和谷達を棋院近くのマックに呼び出した。


「は?ルームシェア?」

「そうそう。一人暮らしは親が許してくれなくてさー。だからもう皆で住まない?と思って」

「はは…だってさ、伊角さん。どうする?」

「うーん…確かに便利なことは便利だな。勉強会だって開き易いし」

「そうそう。家賃だってお得だぜ?月20万するマンションでも、4人で割れば一人5万だし」

「………4人?」


和谷と伊角さんが顔を見合わせた。


「あと一人って誰だよ?本田さん?まさか越智とか言わねーだろな?」

「まっさか〜。あ、来た来た。塔矢〜こっちー」

「塔矢??!」


和谷が撃沈した。

その様子を見て、何も知らない塔矢がムッと目を細める。


「な、塔矢もいいよな?一緒に住もうぜ」

「…………は?何の話だ?」

「オレらルームシェアしようと思ってるんだ。オマエも参加してよ」

「はかばかしい…そんなことの為に僕を呼び出したのか?帰る」

「なんで??オマエ嫌なの?オレと一緒に住むの」

「別に…キミとはいいけど、他の…」


塔矢がチラッと和谷の方を見た。

ああ…そっか。

昔っからそういえば和谷って塔矢のこと高飛車なお嬢様って嫌ってたな…。


「だ、大丈夫だって。その為にオレも伊角さんもいるんだし」

「でも………僕だけ女だ」

「は?平気だって〜誰もオマエを女として見てないから」

「し…進藤、言い過ぎだそれは」

「え?」


伊角さんの言葉に慌てて塔矢の顔を見ると、少しショックを受けたように引き攣っていた。


「ごめん…塔矢、つい本音……いやいや…そうじゃなくて…」

「…ふぅん。キミは僕を女として見てないんだ?」

「え?あ……いや」

「その言葉、後で後悔するなよ」

「え…?」


塔矢が豪快に椅子をひいて、ドサッと腰を降ろした。

偉そうに足も組んで、手で長い髪をサラっと掻きあげる。


「で?どこに住むんだ?」

「あ…うん」


さっき不動産屋でもらってきたいくつかの候補のパンフレットを皆に見せる。

何とか一緒に住むことをOKしてくれた3人。



前途多難で波瀾万丈なオレらのルームシェア生活がまもなく始まる―――
















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