●REWARD 2●





「ただいまー」



精菜の家に一緒に帰って来た。

元旦の緒方家。

当然家主も在宅中で、「お帰り、早かったな」とリビングから緒方先生が出てきた。

娘と一緒にいる僕の姿を確認して、眼鏡をクイっと上げた。


「やぁ…佐為君。明けましておめでとう」

「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

挨拶しながら眼鏡とマスクを外す。

「ああ…よろしく。ここで会うのは久しぶりだな」

「…そうですね。5年ぶりくらいですか?」

「確か新初段シリーズの前だったな。たった5年で三冠か……ずいぶん成長したものだな」

「…ありがとうございます」

「そしてこの5年でずいぶんウチに来るのも慣れたものだろう」

「……」


新年早々遠回しに嫌味を言われる。

それはもちろんバレてるからだろう、先生と奥さんの留守を狙って上がりまくってたことが。


「だが流石に今日は遠慮してくれよ。娘の喘ぎ声は聞きたくないからな」

「はは…」

から笑いすると、横にいた精菜が

「もうお父さんやめてよね!向こう行ってて!」

と先生をリビングに押し戻して、ドアをバタンと閉めた。


「佐為、さっさと私の部屋行こっ」

と僕を階段の方へ引っ張っていく。


「…いいのか?」

「いいの!」

「……」



3階の精菜の部屋に着くと、彼女が直ぐ様ドアのカギをガチャっと閉めた。


「これで邪魔されないから」

「…でも閉めてた方が怪しまれないか?」

「いいの!怪しまれるようなことするんだから!」

「はは…流石に先生の在宅中は出来ないよ」

僕は苦笑しながら部屋の中央にある碁盤の前に座った。

「えー…」

不満そうに口を尖らせながら、彼女も向かい合って座ってくる。


「せっかくだし、とりあえず一局打とうか。あ、その前に…」


僕は彼女の髪に手を伸ばし、ウィッグを取ってやった。

下のネットも更に外すと、いつもの長くて綺麗な髪が姿を現す。


「やっぱりいつもの髪型が一番好きだな…」

「そう?ありがとう…」


もちろん眼鏡もマスクも無しの素顔が一番だ。

ようやくありのままの姿でお互い向かいあえて、僕らは自然と笑顔になる。


「佐為が一人暮らししたら…いつでも会いたい時に会えるね」

「そうだな…」

「それに泊まったら一晩中一緒にいられるね」

「うん…」

「あと少しの我慢だね」

「うん……そうだな」



――でも



一人暮らしなんてまだ3ヶ月近く先の話だ。

それまでどうすればいいんだろう。

今のところ緒方先生がタイトル戦に出る予定はないし。

今の時期はイベントもほとんどない。

(あっても僕も出るイベントばかりだ)

国際棋戦なんてむしろ僕の方がメンバーに選ばれてしまっている。

次精菜と出来るのは一体いつなんだろうか……と現実的なことを考えると、正直お先真っ暗になる。


ニギりながらチラリとベッドの方に視線を向けた。

今まで数え切れないくらい精菜の体を触ってきたこの寝具を見るだけで……勝手に下半身が反応してくる。

緒方先生も奥さんも下にいるのに。

バレないように少しだけでも出来ないのだろうかと考えてしまう自分の浅ましさが嫌になる。



「佐為……?打たないの?佐為が先手だよ?」

「……」


僕の異変に気付いた精菜が、碁盤を避けて側に寄ってくる。

ぎゅっとキツく握り締めた拳に彼女が優しく手を重ねて来た。


「ねぇ…佐為。今日持って来てる?」

耳許で、艶のある声でゴムの有無を確認してくる。


「うん…」

「よかった。じゃ、コッソリしちゃおう?」

「え……?」










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