●REVENGE 3●





5月5日――私の16歳の誕生日・当日。



私は予めお母さんに、今日はケーキも夕飯もいらない旨を伝えた。

そして、今夜帰らないことも正直に話した。



「…ヒカルから聞いたよ」

「え?」

「京田さん、天元戦の対局の前に、ヒカルに言ったらしいね」

「え?!な、何を…?」



――先生、もし今日俺が勝ったら

彩さんと交際することを認めてくれますか?――




……京田さん……





「負けて帰って来た時のヒカルの落ち込み具合はすごかったよ…」

「お父さん…認めてくれたの?」

「約束しちゃったからね。そこはケジメを付けなきゃね」

「……」

「でもヒカル、負けて悔しかったけど、同時に嬉しかったみたい。自分の弟子がここまで強くなってくれて、誇らしいって言ってた」

「お父さん…」

「彩がかかってなかったら、もっと素直に喜べたんだけどな〜って…苦笑してたよ」

「……」




ピンポーン


玄関のチャイムがなる。

私はお母さんに謝った。


「ごめんね、お母さん。ウソは吐きたくなかったの。私、京田さんを4年以上も待たせてる。だから今日は帰らない」

「うん…分かった。正直な娘に育ってくれて僕も嬉しいよ。お誕生日おめでとう、彩」

「ありがとう。行ってきます!」



玄関のドアを開けると、京田さんがいた。

私は我慢できずに彼の胸に飛び込んだ。


「お誕生日おめでとう…彩ちゃん」

「ありがとう!私、京田さんが好き!あの時からずっと変わらず好き!だから、私と付き合って下さい!」


京田さんがぎゅっと抱き締めてくれる。


「うん――喜んで。俺も彩ちゃんが大好きだよ」


こんな真っ昼間に。

こんな玄関の真ん前で。

私達は抱き締めあって、愛の告白をして、そして2年ぶりのキスをした――















「ここ?」

「うん」


京田さんが先月から住んでるというマンションにやって来た。

前より棋院に近いとか言ってたけど、ほんの一駅だけ。

立地はほぼ前と変わらなかった。

じゃあなぜ彼は引っ越したんだろう。

それは中に入るとすぐに分かった。

前は10畳程度のワンルームに住んでいた彼。

今度の部屋はLDKだけでそれを超える。

要するに、前より広い部屋に住みたかったんだろう。


「まだ誰も呼んでないんだ」

「そうなの?」

「彩ちゃんを一番に呼びたかったから」

「……」


ソファーに座るよう促される。

京田さんもすぐ横に腰掛けてきた。

緊張する……


「…京田さん、お父さんに言っちゃったんだね」

「うん……だって黙って付き合ったら、バレた時が恐いしな」

「そうだよね…」


想像したら可笑しくて、クスッと笑ってしまった。


「お父さんに勝ってくれてありがとう…」

「めちゃくちゃ緊張したけどね…。進藤先生の目付き超恐かったし…」

「あはは」

「でも、彩ちゃんの碁盤を睨む目付きに似てるな〜って思ったら、ちょっとだけ緊張が解れたよ」

「私のこと…考えながら打ってたの?」

「うん。最後のチャンスだったしな。これで負けたら俺また彩ちゃんの告白受けるの先伸ばしにしなくちゃならないかと思ったら……いつも以上に力を発揮できたよ」

「火事場の馬鹿力みたいな感じ?」

「うん…」


京田さんが私を見つめてくる。

何だか恥ずかしくて……私は下を向いた。


「…彩ちゃんこの前、帰らないって言ってたけど」

「うん……」

「そういう意味でとらえて…いいのかな?」

「……うん。さっき、お母さんにも言ってきた。今日は帰らないって…」

「そっか…」


京田さんが私の手を握ってくる。

そして口元に持ってきて、ちゅっと手にキスされる。

ドキドキドキ…と、プロ試験初日くらい、ううん…それ以上に緊張する。


「京田さん…」

「俺…初めてだから、きっと余裕なくて…あんまり優しく出来ないかもしれないけど…」

「…うん、大丈夫。京田さんが初めてなのは私のせいだから…私が責任取るね…」

「彩ちゃん…」


見つめ合う。

そしてゆっくり目を閉じて…私達は今日二度目のキスをした――













NEXT

京田さんがヒカルに勝った天元戦は月曜日。その木曜日にヒカルは大阪で十段戦の解説をしました。
精菜が佐為と過ごすことを知った緒方さんが落ち込んでる横で、ヒカルも京田さんに彩を取られてしまう切なさを感じていたのです。
二人はその晩やけ酒に向かいますw