●TIME LIMIT〜再会編〜 5●
娘を抱き抱えて、直ぐさま帰ろうとドアに向かってきた進藤。
絶対に帰さない。
もう二度とどこにも行かさない。
もう絶対にキミから離れないから…――
「塔矢…?」
「もう遅いよ…?今夜は泊まっていけばいい」
「……」
「コネクティングにしたからベッドはあるしね…」
進藤が僕の顔をジッと見つめてくる。
どういうつもりだ?って顔してるな。
そういうつもり…だよ。
僕がキミを誘ってるんだ。
キミが断れるはずないよね…?
「…そうだな。じゃあ…泊まらせてもらうよ」
途端に嬉しそうな顔をした千明。
娘を床に降ろした腕を即座に掴んで――隣りの部屋に引っ張って行った―。
繋がってるドアの鍵をかける。
「こっちが…僕とキミの部屋だから」
「…へぇ、しばらく会わないうちにずいぶんと積極的になったもんだな…。他の男の影響…?」
「…だったらどうする?」
「……」
進藤が思いっきり僕を睨んできた。
それはまだ僕を愛してくれてる証拠なのかな…?
虫酸が走る思いを今…痛感してくれてる…?
「…嘘だよ」
「え…?」
「9年前のキミの誕生日…。その日以来…僕は誰とも関係なんて持ってない…」
「……」
「9年間…ずっと一人だった…」
「…本当に?」
「うん…」
「……」
たちまち少し嬉しそうに顔を緩めるキミ。
相変わらず分かり易過ぎだね…。
「これでもかなりの数…告白されたんだ…」
「そう…だろな」
「お見合いだって一体何十件…何百件…断ったか分からない…」
「……」
「何で僕が結婚しなかったか…誰とも付き合わなかったか……キミは分かってる?」
「……」
「分かるって顔してるな」
「うん…でも…、オレにとって都合のいい理由しか思いつかねぇ…」
思わずクスッと笑ってしまった。
進藤の頬に優しく片手を添えてみる…――
「キミが……好きだからだよ」
進藤の目が大きく見開いた―。
「本当…に?」
「うん…。ごめんね…気付くのが遅くなって…。キミと離れてみて…初めて自分の気持ちに気付いたんだ…」
「……」
添えてある僕の手を進藤がぎゅっと掴んでくる…―
「んなこと言われたら…、オレ…調子に乗っちゃうぜ…?」
「うん…」
「後でキャンセルきかないからな…?」
「いいよ…」
「もうオレから離れられると思うなよ…?」
「僕も離すつもりないから…」
「塔矢…っ」
進藤がキツく僕を抱き締めてきた―。
…震えてるね。
そんなに嬉しい…?
僕も…嬉しいよ。
9年ぶりに感じるキミの温かさ…。
すごく心地いい…。
でも9年前の僕も…10年前の僕も…もっと昔の僕も…ずっと心地よく感じてた…―
本当はずっとキミが好きだったんだね…。
ごめんね…もっと早く気付いてあげれなくて…。
そしてありがとう…。
僕が気付くまで…ずっと僕のことを思ってくれていて…―
「進藤、僕ら…今からでも遅くないよね…?」
「当たり前じゃん…。例えどんなに歳くってても…おじいちゃんでも間に合うぜ…」
「そんなに歳取ってからは困るかな…。もう子供産めないし…」
「え…?」
進藤が驚いたような顔をして僕の顔を見つめてきた。
僕もそれに返して…微笑んでみる。
「泣き虫で寂しがり屋のキミが寂しくないように…もっと産んであげるね」
「…マジ?」
「うん…」
「ありがと…。でもオレはオマエさえいてくれたら別に寂しくないから…」
「そう…?」
「うん…。あ、でももう一人ぐらいいたらもっと嬉しいけどな」
「じゃあ…今から作ろうか」
「うん…―」
何もかもが9年ぶりの僕ら。
でも、きっと今の方が素敵な一夜を過ごせそうな気がするね…――
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