●TIME LIMIT〜再会編〜 2●


塔矢がくれたオレのたった一つの宝物。

それが娘の千明。

千明がいるからオレは生きられる。

千明さえいてくれたら…他に何もいらない。



……だけど


たまに流れるこの涙はなんだ…?

意味も分からずどんどん出てくる…。

胸が苦しくなる…。

塔矢…。

塔矢…――


「お父さん…大丈夫?」

オレの涙に気付いた千明はいつもオレの頭を撫でてくれる。

ありがとう…。

オレ…変だよな。

お前がいてくれるだけで満足なのに……それでもたまに塔矢を欲してるんだ。

頭が…体が…勝手に塔矢を求めてる。

塔矢に会いたい…って。

抱き締めたい…って。

その満たされない思いが涙として…目から流れ落ちる。

やっぱりオレってダメだな…。

いい加減…諦めたらいいのに…。

もう何年会ってない?

フられてから…もう何年だ?

普通の奴ならとっくに新しい恋を見つけてる。

手に入れてる。

でもオレは…決して手に入らない女を思い続けてる方が幸せなんだ…。

塔矢…好きだよ。


大好きだ…――













「あら、進藤さん」

「どうも」

「今日もいい天気ですね」


夕飯の買い物に出かけようと玄関を出ると、花壇に水をやってるお隣りの奥さんに挨拶された。

お隣りの奥さん。

つまり、美鈴ちゃんのお母さんだ。



「…あ、千明に6時までには帰ってくるようにって伝えてもらえますか?」

「え…?」

奥さんが首を傾げた。

「美鈴…、今日は一日千明ちゃん家で遊ぶって…そっちにお邪魔してるはずですが?」

「は?いや…千明は今日は美鈴ちゃん家で遊ぶって朝家を出たんですが…」

「まぁ…」

「………」

お互いの顔が途端に曇った。



…どういうことだ…?



「やっぱり別の場所で遊ぶことにしたのかしら…」

「だと…いいんですが」


何だか異様に胸騒ぎがする。

最近は毎日のように物騒な事件が起きてる。

子供を狙ったりするやつも頻繁に。

都会だけじゃない。

地方でも…どんなド田舎でもだ…―


「携帯…持たせときゃよかった…」

「進藤さん、そんな深刻な顔しなくてもまだ3時を過ぎたばかりですし…。もうちょっと待ってみません?」

「…そうですね」


取りあえず気持ちを落ち着かせるために家の中に戻り、千明が帰ってくるのを待つことにした。

だけど落ち着こうと思えば思うほど不安が募ってくる…―


4時になった。

帰ってくる気配はない。


5時になった。

まだ…その気配は一向にない。


どうしてだ…?


何で帰って来ない…?


夏ならともかく今は真冬だ。

陽だってあと30分もすれば完全に落ちちまう。

いつもならとっくに帰ってるのに…―



ガチャ…


玄関のドアを開けて外に出てみた。

右を見ても…左を見ても…千明の姿はない…―



…もしもう二度と帰って来なかったら…


…二度と会えなかったら…


…どうしよう…


…佐為みたいに突然消えちまったら…



…オレは…今度こそ生きていけない…―




そう思うと…またしても目が滲む…―









プルルルル
プルルルル
プルルルル
……


「…電話?」


もしかして千明か?!



ガチャッ

「はい!進藤です!」

『進藤?僕だよ…』

「え…?」




この声…




まさか……





「塔…矢…?」

『うん…』

「何で…この番号…」

『千明に…教えてもらったんだ』




え?!




「何で千明って…え?どうして…」

突然のことで頭の回らないオレに、塔矢は落ち着いた声で話してきた…。

『今日ね…キミの娘が僕を尋ねて棋院に来たんだ』

「は?!千明が?!」

『うん』

「…じゃあ…今も?」

『うん…目の前にいるよ』


そう言われて、驚いたけど…心なしか安心した。

一体どこで母親のことを知ったんだか…。


「…塔矢、千明に代わってくれ」

『だーめ。会いたいんだったら迎えに来れば?』

「…分かった。今…どこ?」

『今は棋院近くのカフェだけど…、キミが着く頃には閉まってるだろうから移動するよ』

「どこに?」

『そうだね…、キミと僕が最後に過ごしたホテルとか…どう?』

「分かった。今日中に行く」

『うん。待ってる…』



オレと塔矢が最後に過ごしたホテル。

つまり…千明を作ったホテルだ。


8年ぶりにオレは東京に戻る。

8年ぶりに塔矢に会う。



全てに決着を付けるために…――















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