●TIME LIMIT〜再会編〜 1●
8年ぶりに再会を果たした僕と娘の千明。
――そう
名前は『千明』らしい。
進藤が付けそうな名前だよね…――
「…じゃあお父さんに僕のことを聞いたんじゃないんだ?」
「うん。クラスの子がテレビで私そっくりな人を見たって言うから…ネットで調べたんだ。でもお母さんの名前はね、お父さんが見てた新聞に載ってたの」
「そう…」
最初は緊張気味だった千明も、時間が経つに連れて口数が増えてきた。
二人とも昼食をまだ食べてないと言うので、駅前のカフェに入って話の続きをすることにした。
「千明ちゃんから見て…お父さんはどんな人?」
「んー…とね、一言で言うと『単純』かなぁ…?」
「はは」
「でもすごく秘密主義なんだよ。お母さんのことも自分のことも全然話してくれなかったし。バイトのお仕事だって一体何してるんだか…」
「お父さん…バイトしてるんだ?」
「うん。だから今までずっとフリーターかと思ってたの。碁をしてたなんて知らなかったし…」
「家で…打ってなかったんだな」
「うん。私が知る限りでは一度も」
「……」
ということはこの8年間…キミは一度も碁を打ってないのか?
…いや、昔和谷君からネット碁で進藤と打ったという話を聞いたことがあるな。
でも…所詮はネットだけ。
棋士としてはなんという時間のロスだろう。
確かに碁は水泳と同じ。
ずっと打ってなくても体が覚えてるから…それなりの棋力は未だにあるだろう。
でも…一歩も進まない。
8年前のままのキミに今の僕は倒せない。
本当にもう…帰ってこないつもりだったんだな…―
「僕とお父さんはずっとライバルだったんだ…」
「ライバル…?碁の?」
「うん…。最初は僕がかなりリードしてたはずなのに…いつの間にか抜かれてた。タイトルも信じられないぐらいすんなりたくさん取って…僕は彼のライバルであることを本当に誇りに思ったよ」
「お父さん四冠だったんでしょ?ホームページに書いてたよ」
「うん、そう…。すごいでしょ?」
「うん!」
「でもね…、千明ちゃんを育てる為に…あっさりそのタイトルを捨てた」
「え…?」
「ごめんね…。僕が早く気持ちに気付いていれば…千明ちゃんにも進藤にも辛い思いをさせなくてすんだのに…―」
「お母さん!泣かないで!」
涙を潤ます僕に…千明が頭を撫でてくれた。
「ありがとう…。どっちが親だか分かんないねこれじゃあ…」
「ううん。お父さんにもよくしてあげたから…」
え…?
「お父さん…泣き虫なんだ。普段はすごく明るいんだけど…、たまにね…泣くの。でも私が頭を撫でてあげるとまたすぐに明るくなるから…」
「……」
「お父さんね…寂しいんだと思う。いつも私がいるだけで十分なんて言ってるけど…、やっぱりお母さんに会いたいんだと思うの」
…そうだね。
僕も…そう思うよ。
キミは信じられないくらい僕のことを愛してくれてた。
僕がキミをフった後も…ずっと…ずっとね。
誕生日限定の恋人の為に…本当の恋人である彼女と別れるぐらいに…。
キミが田舎に行ったのも他でもない……僕の為だ。
僕が母親であることを周りにも千明にも隠してくれって言ったから…。
僕と瓜二つの千明。
すぐバレてしまうような近くでは…育てれないと思ったんだろう…。
でも本当はキミだって僕と正式に結婚して、一緒に育てたかったんだろう?
そうだよね?
進藤…――
「…千明ちゃん、家の電話番号…教えてくれる?」
「うん、もちろん………あ」
「え?」
千明がお友達と顔を見合わせた。
続けて時計にも。
「ど…どうしよう…。もう5時過ぎてる…。早く帰らないと怒られる…。お…お母さん…」
僕に助けを求めてくる千明。
当然のように助けてあげるつもりの僕。
…不思議だね。
ほぼ初対面も同然なのに…ちゃんと僕ら『親子』をしてる…――
プルルルル
プルルルル
『はい!進藤です!』
久々に聞いたキミの声…。
かなり慌ててる様子なのは、千明を捜してたせい…?
「進藤、僕だよ…」
『……え?』
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