●RESORT WEDDING 1●
「よ、塔矢」
「…進藤。おはよう」
「おはよ」
5月の晴れた日曜日。
僕は羽田で進藤に会った。
もちろん偶然ではない。
僕も彼も、とある人物の結婚式に呼ばれていて、これからその会場である北海道に向かうからだ。
ちなみに向かうのは僕らだけでもない。
チラッと後ろをみると、新婦の学生時代の友人や先輩もいた。
「北海道ってまだ寒いのかな〜?筒井さん天気予報見てきた?」
と進藤がその先輩に話しかける。
「最高気温は15度って言ってたよ。天気はいいみたいだから、気温の割には暖かく感じるかもしれないね」
「15度ならこのコートで大丈夫か」
進藤が今は脱いでおこう、と春用の薄手のコートをイスに置いた。
「にしてもあかりの奴、何で結婚式が北海道なんだよー。相手もこっち出身なんだから、こっちですりゃいいのに」
「今はリゾートウェディングが流行ってるからね。藤崎さん、中学の時からラベンダーの時期の北海道で挙げたいって言ってたよ」
「ふーん…リゾートウェディングねぇ」
チラッと進藤が僕の方に視線を向けた。
「何?」
「…別にー。何でオマエまで呼ばれたのかなーって思って」
「それはこっちが聞きたいよ…」
―――そう
今日は進藤の幼なじみである、藤崎あかりさんの結婚式なんだ。
今まで数えるぐらいしか会ったことのない藤崎さん。
なのに、彼女の人生の門出である結婚式になぜか僕が招待されてしまった。
特に他に用事はなかったのでとりあえず来てみたのだが……本当、なんでだろう?
「あかり!おめでと〜!!」
札幌に着き、式場のあるに郊外まで送迎バスで移動すること約一時間。
着いた教会は、周りにラベンダー畑もある自然豊かなリゾートホテルの中にあった。
さっそく藤崎さんの控室を訪れた僕ら一行。
彼女の友達が、ワッと彼女の周りを取り囲んでいた。
「あかりキレ〜イ!このドレス、あかりに似合ってるよ〜」
「えへへ、ありがとう」
確かに…すごく綺麗だ。
進藤が思わず見とれて固まってしまうくらい。
くすっと笑った僕は、
「勿体ないことしたね」
と彼に耳打ちした。
「は?何が?」
「だってキミ、昔藤崎さんに告白されたって言ってたじゃないか。もしあの時OKしてたら、今頃彼女はキミの花嫁だったかもしれないのにね」
「…いつの話だよソレ。それにあの時は―――」
「ヒカル!!」
進藤の姿に気付いた新婦が、ドレスを持って彼の元に駆け寄ってきた。
「来てくれたんだね。ありがとう」
「おめでと、あかり。キレイじゃん」
孫にも衣装〜とか言い出した彼の口を、僕は慌てて手で塞いでやった。
「塔矢さんも来てくれてありがとう」
「おめでとう、藤崎さん」
「ありがとう」
結婚式は12時ちょうどに始まった。
オルガンの音を合図に後ろの扉が開き、新婦が父親にエスコートされて入ってきた。
教壇の前にいる新郎は、彼女の晴れの姿をうっとりするように目で追って…そして手を取った。
今まで何回も何十回も参列したことのある結婚式。
彼女のように、僕が主役になれる日は果たしてやってくるのだろうか。
あんな風に皆の前で愛を誓って、あんな風に指輪を交換して、あんな風にキスをして――
「あかり〜!こっちー!」
厳粛な式が終わった後、独身女性だけが参加出来るブーケトスが行われた。
もちろん僕も参加してみる。
他の子達みたいにキャーキャーはしゃぐことはなくても、実際欲しいのが本音だから。
「きゃー!やったぁ♪」
でも結局取れなくて、ちょっとガッカリ。
それが表情に出てたのか、進藤にプッと笑われた。
「塔矢も女なんだな〜」
「…悪い?」
「別にー。さーて、次はやっとメシだぜ♪腹減ったぁ」
「キミはまさに花より団子だね…」
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