●RAIN 2●
進藤にホテルに連れて来られてしまった―。
何もしない、服が乾いたらすぐ帰ろう、とか言っていたが…本当だろうか―。
この状況で何もしない男っているんだろうか…。
しかも相手はあの進藤だぞ?
確かに碁で忍耐力は鍛えられてそうだけど……いかにも手が早そうな見た目だし。
いや、見た目で人を判断してはいけない。
…でも実際にキスは付き合い始めたその日にされてしまったし…。
色々頭の中で巡らしながら、僕はバスタブに浸かって体を温めた―。
ガチャ
「進藤、出たよ」
「あ、じゃあ次オレ入るよ」
「お湯はっておいたから」
「サンキュー」
いつもと変わらない様子で、さっさとバスルームに入っていった。
…ふーむ。
何か起こりそうな雰囲気ではないな。
少し期待していつも以上に体をキレイにしてみたけど…無駄だったのかな。
ちょっと残念…。
溜め息をつきながらベッドに腰掛けた。
絶対に出来ないことだけど、もし僕が裸でこのベッドの中に入って進藤を誘ってみたら…彼はその気になってくれるのだろうか。
「何してんだ?バカじゃねぇ?」
とか言って呆れられる可能性は……5%ぐらいか。
「塔矢無理すんなよっ!まだ早いって!」
とか言って真っ赤になりながらも拒否してくる可能性は……20%ぐらいか?
あとの75%は彼がその気になってくれる可能性だけど…。
言っておくが、僕だって普通の女の子なんだからな!
いつかは好きな人とも体を重ねてみたいと思ってる。
それが今日なのか、まだまだ先なのかが早く知りたい―。
「あーさっぱりした」
進藤がご機嫌にバスルームから出てきた。
「服乾くまでまだ時間かかりそうだな」
「そうだね…」
僕の座っているベッドは素通りして、彼はソファに腰掛けてしまった。
「…暇だな。何かする?」
「何かって…?」
「んー…シリトリとか?」
思わずガクッと倒れそうになってしまった。
シリトリ?
この状況でシリトリ?
ふざけるなぁっ!!
「シリトリなんてしたくないよっ」
「だよな。オマエとするならやっぱ碁だよな」
進藤が鞄の中からマグ碁を取り出した。
碁、ね―。
うん、確かに僕は碁が好きだよ?
だけど何も今打たなくても…。
小さな溜め息をついて、僕はベッドから立ち上がった。
「うん…そうだね。打とうか―」
「ああ。オレ先盤でいい?」
「どうぞ」
…あーあ、このまま何もないまま服が乾いてしまうんだろうか。
少しぐらい甘い雰囲気を味わいたかったな…。
進藤のバカ…。
「…このホテルさ、22時過ぎると宿泊になっちまうんだって」
しばらくは無言で打っていたけど、盤面も終局に近付いた所で進藤が口を開いた―。
「ふーん…そういえば今何時なんだ?」
「8時過ぎ」
「じゃああと2時間弱か…。まぁそれだけあれば服も乾くよ、きっと」
「……」
マグネットの碁石で次の一手を打とうと手を伸ばしたら――その手を掴まれた。
「…進藤?」
「塔矢…泊まっちゃダメかな…?」
「え…?」
顔をあげると、耳まで真っ赤になった進藤の顔が見てとれた。
「先生達…今台湾だって言ってたよな?」
「あ…、うん―」
「オレの親も今日出かけててさ…」
「そうなんだ…」
「うん…」
「……」
「……」
…これって…もしかしたら…もしかするんだろうか…。
泊まりたいってことは…当然そういうことをしたいっていう意味も含まれてるんだよな…?
僕の早とちりじゃないよね…?
「ここに入る前に何もしないって…言ったけどさ、…やっぱり気が変わったっていうか…最初っから少しはそのつもりだったっていうか………ごめん」
何故か頭を下げてきた。
「ダメ…かな?やっぱ嫌か…?」
「ううん…」
首を横に振ると、進藤の顔がたちまち緩みだした。
「本当に…?」
「うん…」
「オレたぶん途中でストップきかないぜ…?」
「望むところだよ」
「塔矢っ!」
両腕で思いっきり抱き締められ、頬や髪に何度もキスを落としてきた―。
「大好き…塔矢―」
「僕もだよ…」
お互い顔を見合わせ…微笑みあったあと、ゆっくり目を閉じて――深いキスをした―。
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