●RAIN 1●
「うわっ、すげぇ雨」
「本当だ…。しばらくは止みそうにないな」
――日曜日
学校も仕事も休みだったオレらは、久々に一日丸々碁デートをすることにし、朝からカフェとレストランを転々としながら対局を続けていた。
だけど少々熱中しすぎていたみたいで、気がついた時には既に陽は落ち、雨まで降り出してしまっていた―。
「…仕方ない、駅まで走るか?」
「そうだね、ここももう閉店だし」
オレらは覚悟を決めて雨の中に飛びだした―。
「ったく、天気予報じゃめちゃくちゃ晴れマーク出してたくせに!」
「最近の天気予報はあてにならないからっ」
お互い愚痴を言い合いながら駅まで急いだ。
「うわっ!増々強くなってきたし!」
「ちょっと雨宿りしよう!これじゃあ前が見えないよっ」
「そうだなっ」
お互いの声もよく聞こえないぐらいに強くなってしまったので、ちょうど視界に入ってきたコンビニの中に駆け込んだ。
「うー、下までびちゃびちゃ。気持ち悪ぃ…」
「傘買ってくるよ」
「ああ」
今更さした所で意味がないような気もするが、このずぶ濡れの格好でお店の中にいても迷惑なだけだもんな。
塔矢が買ってきた傘をさして、オレらはまたすぐ外に出た。
「つーかさ、この格好で電車なんか乗れねぇぞ」
「うん…タクシーも無理だろうね」
「んじゃ家まで歩く?」
「ふざけるな…何駅分の距離があると思ってるんだ」
「…だよな」
軽く10キロ15キロはあるよな…。
あーあ、何でカフェを出る時転でタクシーを呼ばなかったんだろ…。
つか濡れた服を着てるせいかめちゃくちゃ寒い…。
さすが2月…。
今日の気温、最高で6℃とか言ってたっけ。
このままじゃ風邪ひきそうだぜ…―。
「塔矢寒くねぇ?」
「寒いに決まってるだろ…。おまけに服が体にひっついてきて気持ち悪いっ」
「オレも…」
取りあえず少し震え気味の塔矢の体を引き寄せてみた―。
不謹慎にもその体の柔らかさに少しドキッとする―。
「――あ、そうだ」
「なに…?」
「あそこの角曲がった先にホテルあったじゃん?そこで服乾かさねぇ?」
「ホテル?そんなものあったか?」
「うん、ラブホだけどな」
「ラブ…」
塔矢がオレの側から慌てて離れた。
「ふ、ふざけるなっ!誰がそんな所に…」
「いいから行こうぜ。このままじゃ風邪ひくのがオチだし。オマエ今週名人戦の2次の決勝あるんだろ?」
「そうだけど…、あるけど…でも―」
「心配しなくても何もしないって。服乾かし終えたらすぐ帰ろうぜ」
「でも…」
ゴネる塔矢の肩を抱いて、無理やり連れていった―。
「何だ、結構フツーじゃん」
「本当だ…」
部屋に入ってみると案がい普通のシティホテルと内装は変わらなくて、塔矢も少し安心したように体の強張りを解いてくれた。
「オレこっちで着替えるから、オマエはバスルーム使えよ」
「うん」
「ついでに風呂にも入って、体温めた方がいいぜ」
「分かってる」
ドアが閉まるのを確認してからオレも着替え始めた。
着替えつっても替えの服なんかないから、取りあえずバスローブを着ておく。
アイツが出てきたらオレも風呂に入ろう…。
「…にしてもラブホなんか初めて入ったな」
無駄に部屋中をキョロキョロ見渡してしまう。
こんなに広いし、設備もアメニティも揃ってるのに4千円って安いよな。
しかも二人で。
普通のシティホテルでデイユースを使おうもんなら1万は軽くいるのに…。
余計な人材費とかがいらないから安いのかな…?
どうでもいいことを頭の中で巡らしながら、中央のベッドに横になった―。
「お、お決まりのやつもちゃんとあるじゃん」
サイドボードに置かれてあった例の避妊具を手に取った。
塔矢と付き合い出してもうすぐ丸3ヶ月だよな…。
いつかオレらもこれを使う日が来んのかな…。
キスまではすぐ出来たけど…、やっぱこの一線を越えるのはなかなか難しいよなぁ…。
しばらくぼーっと眺めてると、バスルームのドアが開いたので、慌ててそれをサイドボードに戻し、ベッドから起き上がった―。
「進藤、出たよ」
「あ、じゃあ次オレ入るよ」
「お湯はっておいたから」
「サンキュー」
普段どおりを装って、慌ててバスルームに入った。
「はぁー…」
やべぇ…。
アイツのバスローブ姿なんて直視出来ねぇよ…。
一応ここに入る前に何もしない宣言しちゃってるからな。
手を出すわけにはいかないんだ。
そりゃ塔矢がしたいっていうのなら話は別だけど…。
でもアイツのことだからそれは絶対にない。
アイツはむしろ結婚まで貞操は守りぬきそうなタイプだからな。
「はぁ…落ち込む」
これってある意味すげぇチャンスなのに…―。
NEXT