●PROPOSE 3●





結婚を決めてからの僕の行動は早かった。



翌朝、十段の防衛に向かう前に僕らは緒方家を訪れて、緒方先生にお決まりの台詞、

「精菜さんを僕にください」

と挨拶をした。


先生には鼻で笑われた。

「とっくの昔にやっただろうが」と。

もちろんそれは新初段シリーズのことを言っている。


「そうでしたね」

「ふん、父親の二の舞にならなかったことは褒めてやる」

「ありがとうございます」





そして僕は第三局の会場である長野まで、精菜を連れて行った。

それはもちろん、挑戦者が自分の父で、大盤解説を担当するのが母で、聞き手を担当するのが妹だったからだ。


「お父さん、お母さん、彩、ちょっといい?報告があるんだけど」


タイトル戦に恋人同伴で来て報告があるなんて息子に言われて、それが何なのか分からない親はいないんだろう。

まだ何も言ってないのに、

「お兄ちゃん、精菜おめでとう!!」

と彩に騒がれる。

それがまた大きすぎる声だったので、関係者全員に知れ渡ってしまったのだけれど。


「おめでとうございます」

とまるで防衛に成功したかのように次々にお祝いされる。


もちろん5度目の防衛にもちゃんと成功するんだけど。

そして西条の結婚式には夫婦として参加する僕らがいた。






「お前らはいつ式挙げるん?」


挙式開始前、西条の控え室を訪れた時に聞かれる。

「披露宴は夏かな。名人戦始まる前には終わらせたいから」

「そやなぁ」

「また詳しい日にちが決まったら教えるよ」



初めて参加した友人の結婚式。

中1の時から9年間の交際を経てゴールインした西条と金森さんは、すごく幸せそうに見えた。

ずっとお互いだけな二人。

そういう僕と精菜もずっとお互いだけだ。

ちなみに僕の横(精菜とは反対側)に座ってる彩と京田さんもずっとお互いだけだ。


「京田さん、私も結婚したくなってきた〜」

「でも兄妹が同じ年に結婚するのって良くないんだろ?早くて来年だな」

「えー」

「いや…待てよ。俺の妹が来年結婚するとか言ってたな。じゃあ再来年?」

「ええー」









ちなみに僕は結局披露宴はキャンセルした。

精菜の妊娠が発覚して、おまけに悪阻で入院してしまったからだ。

まぁ挙式自体は新婚旅行も兼ねて先にハワイでしておいたから、ヨシとしよう。










「予定日2月なんだって?」


研究会で実家に行った時に父に聞かれる。

「うん」

「2月にはオレもおじいちゃんか〜。オレまだ40なんだけど?」


十分オレの子供で通用するよな…と父はちょっと複雑そうだった。

そもそもは父が17で僕を作ったりするから、こんな年齢がおかしいことになるんだ。

自業自得だ。


「アキラ〜、オレら若すぎる祖父母だよな」

「そうだね。誰のせいでこんなことになったのかな?」

「え…、アキラ怒ってる…?」

「怒ってないよ」

「本当に…?」

「うん」


両親の会話を聞いて、京田さんが苦笑している。


「そういえば西条君とこもおめでただってね」

「みたいですね。たぶん同じ学年になるかと」

「まだ性別は分からないの?」

「次の検診のあたりだと思います」

「どっちがいい?」

「どっちでもいいですよ」

「まぁどっちに似てもきっと美男美女に成長するよな」

「はは…」


「最近彩ちゃんから結婚したいオーラが半端ないんだけど、どうしたらいいと思う?」

「もう結婚したらどうですか?あれですよね?兄妹が同じ年に結婚したらご祝儀やその後のお祝いが重なるから大変とか」

「らしいけどね」

「でも進藤家も京田家も実家も含めてご祝儀に困る生活は送ってないと思いますけど」

「そりゃそうか」

「来週からよろしくお願いします」

「うん、よろしく」


来週から始まる僕の名人位防衛戦。

挑戦者は京田さんになった。

近い将来の義兄弟対決だ。



両親とも京田さんとも彩や西条とも、これからも引退するまで戦い続けることになる。

真剣勝負は何より楽しい。

精菜と表舞台でもう戦えないのは残念だけれど。

でも彼女がずっと横で応援してくれているから、今の僕がある。

ひとまず新しい命の誕生を楽しみに待ちつつ、来週からの防衛戦も他の棋戦も楽しんでいこうと思う。



僕はずっと若い両親から生まれたことが不満だったけど、でも実は今は感謝している。

こんなにも満足のいく人生を過ごせているからだ。

キッチンでケンカしつつも、結局いちゃいちゃしている両親に僕は視線を向けた。




素晴らしい人生をありがとう、お父さんお母さん――











―END―











以上、佐為×精菜のプロポーズ話でした〜。
そりゃもう精菜は業を煮やしてますよ。
佐為を襲って強行手段に出ますよw
妊娠したもん勝ちですよ(笑)
思考がヒカルに似てる?

精菜はついにアキラに勝ち、女流棋聖の座をゲットしたみたいですね。
実は精菜は本因坊リーグ入りもしたことがあります。
だから七段なのです。
本因坊リーグでもちろん佐為とも戦いました。
佐為は精菜と真剣勝負が出来て満足みたいですが、精菜は
(私は佐為とこんな関係望んでないんだけどな…)
とモヤモヤしてたのかと。

ちなみに佐為が精菜に贈った指輪、名人リーグ一期分の金額らしいです。
さぁ計算してみましょう(笑)
名人リーグは9名で行われるので、全部で8局あります。
勝った場合の対局料は80万らしいです。
つまり80万×8局=640万です!!ワオΣ(・ω・ノ)ノ
ちなみに京田さんは挑戦者になりました。
挑戦者になるにはほぼ全勝しなくてはならないので、京田さんも名人リーグの手合料だけでそれだけの収入があることになります。
もちろん京田さんは本因坊リーグにも棋聖Sリーグにも名を連ねているので、3大リーグの手合料だけで年収1500万くらいあります。
うん、ご祝儀には全然困らないねw
彩はいい旦那を捕まえたね(笑)

佐為は現在名人のタイトルを持っています。
それはもちろん高3の秋、アキラから奪取したものです。(史上最年少名人になりました)
4月に緒方さんから十段を、11月にアキラから名人を、更に12月にヒカルから王座を奪取しています。
高3で既に三冠になった佐為だったりするのですw
もちろん九段です〜。(もちろん入段から4年8ヶ月という史上最速九段、17歳11ヶ月という史上最年少九段です)


さて、次の視点リレーは金森女流です。
(このあたりから主要キャラリレーではなく、脇役キャラリレーとなります 笑)
今回結婚した西条×奈央のプロポーズ小話、行ってみましょう!


おまけ(彩視点)