●WILLFUL PRINCE 6●




僕たちの噂はあっという間に広まってしまった。




「キミって本当に信じられないっ」

「だからゴメンってー。つい口が滑っちゃったんだよ」

「『つい』で済むか!キミのせいで今日一日僕はずっと『可哀想な子』の目で見られてたんだぞ?!」

「いいじゃんそっちの方が。悪いのは全部オレになってんだし」


――そう

噂は悪魔で「噂」だ。

広まり過ぎるとだいたい尾ひれが付き始める。

そもそも進藤は僕とこうなるまで、それなりに女性関係は派手だったので、今回は

『進藤の方が僕を無理やり…』

という広まり方をしてしまったらしいのだ。


「不公平だ!僕だって悪いのにっ」

「仕方ないって。こういうのは男の方が悪くなるもんなんだよ」

「だいたい無理やりってところが気に入らないんだ!僕は全然嫌がってなんかないのにっ!…そりゃあ確かに昨日のキミはちょっと横暴だったけど―」

「ごめーん。今夜は優しくするから」

進藤が僕の頬にちゅっと唇をあてたところで、向かいあって座っていた和谷君が立ち上がった。


「…おい、そこのバカップル。そういうのは二人きりの時に話してくれ」

「あ、ごめん」

二人で同時に謝ると、和谷君がドカッとまたイスに座った。

その横に座っている伊角さんも奈瀬さんも、真っ赤な顔してお箸を口に運んでいる。

いけない…今は夕食中だった。


「ったく、信じられないのはこっちだぜ!何でお前らそこまでしておいて付き合ってねぇんだよっ!」

「何でって言われても…」

進藤が僕の方に顔を向けた。

「オレは付き合いたいんだけど…塔矢が承諾してくれなくて」

「何で僕のせいなんだっ!僕は一度もキミから付き合おうなんて誘いは受けてないぞ!」

「じゃあ今から言うから付き合ってくれる?」

「嫌だ」

「ほらー。いっつもこんな感じなんだよ」

進藤が口を膨らました。


「あー…じゃあ何で塔矢は進藤と付き合いたくないんだ?」

今度は僕の方に和谷君がふってきた。

「だって……進藤の言葉って信じられないんだもん」

なるほど、と3人共頷いた。

「ちょ、ちょっと待て!何で信じられないんだよ!オレはいつも大真面目だぜ?!」

「進藤ー、それはだな、お前の今までの態度に問題がある」

「オレの態度…?」

和谷君が進藤に説教を始め出した。

「奈瀬が朝言っただろ?好きでもないのに次から次へと付き合っていく男って最低ってさ」

「そうよそうよ!進藤って最っ低!」

奈瀬さんが横から声をあげた。

「えー…だってさー、フリーの時に可愛い女の子から誘われたらさー、誰でも付き合っちゃわねぇ?」

「そりゃあ…そうかもしれないけどさ、お前の場合極端すぎんだよ。一体去年一年で何人の女と付き合った?!」

「それは……」

「塔矢はたぶん自分もその中の一人にしかすぎないって思ってんだよ」

「そうなのか?!」

進藤が慌てて僕の方に振り返ったので、コクンと頷いた。

「言っておくけど、アイツらとオマエは全然違うんだぜ?!オレがオマエを好きなんだからな!」

「…!」







…やっと…







…言ってくれた…









「え…オマエなに泣いてんだよ。何度も言ったじゃん……好きだって」


そうだね…。

ベッドの上じゃ言ってくれてたね…。

だけど僕は今言われたかったんだ…


「あーあ、進藤泣かしちまったー」

「サイテー」

「うるせェ!ほら、塔矢もう部屋帰ろうぜっ」

進藤が僕の肩に手を回して、立ち上がらせた。

「ま、せいぜい頑張れよ。明日の朝にはちゃんとしたカップルになってることを祈ってるぜ」

「塔矢をこれ以上泣かせたら許さないわよっ!」

そんな皆からの言葉を背に、僕らは進藤に連れられるまま…新館の部屋に戻った。



「涙止まった…?」

「うん…」

進藤に抱き締められたままの状態で、僕は気持ちを落ち着かせていく―。

「オレ…言っておくけどさ、好きなんて言葉…オマエにしか言ったことないんだからな」

「本当に…?」

「本当だって…。オレは好きでもないやつに、上辺だけでも言ってやるほど優しくないからな」

「…でも僕には初めてした時から言ってくれてたよね…?」

「うん…だからオレ最初からオマエが好きだったんだよ。気付いてなかっただけで…ずっと前から…―」

彼の顔が近付いて来て…ゆっくり唇が重なった―。


「…ん…―」

触れるだけのキスはすぐに離されて、更にキツく抱き締められる―。


「そういやオレ…一度もオマエの気持ち聞いたことない…」

不穏そうに僕の顔を覗いてきたので、僕は顔を隠すように彼の胸に埋めた―。

「前に言ってくれたやつ…もう一度聞いてくれる?」

「え?何だっけ…」

「ほら、あれだよ。質問を変えるとか言って、聞いてきたやつ―」

「あぁ、あれな…」

進藤がクスッと笑って、僕の耳元で囁いてきた―。

「…塔矢はオレのこと好き…?一人の男として―」

僕は更に進藤に抱き付いて、浴衣の隙間から見えた彼の肌に吸い付いた。

「…っ…―」

唇を離すと、進藤はすぐにそれを手でなぞってきた―。

「わ、初めてオマエから付けられた〜。嬉しいかも♪」

喜んでる彼の耳元に口を近付けて、僕も気持ちを伝えた―。



「…好きだよ進藤。誰よりも―」













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