●WILLFUL PRINCE 5●


「…ん…っ―」


朝起きて一番にしたことは――キス。

昨日までの関係と全く変わってないのに、なぜか今日のキスは特別に思えた。

たぶん…キミの気持ちが分かったからだ。

キミは僕が本気で好きなんだよね?

だから…信じてもらえないのが辛くて…昨日泣いたんだろう?

ごめんね…意地悪言って―。

進藤…一度でいいから、普通の状況の時に…好きだって言って?

碁を打ってる時でも…

お茶してる時でも…

ただ単に歩いてる時でもいい…。

体を合わせてる時以外で、一度でもいいから言ってくれたら…僕はキミと付き合うよ…?


「好きだよ…」

「……」

彼が唇を離して、優しく囁いてきた―。


今はダメ…。

こんな裸で抱き締め合ってる時に言われても……ダメだ。

ものすごく嬉しいけど…胸も熱くなるけど……

僕は応えることが出来ない―。




「…ご飯食べに行こうぜ。もうすぐ8時だし―」

「うん…」

お互い再び浴衣に着替えて、昨日夕食会があったのと同じ本館2階の大広間に一緒に向かった。

朝起きる時間は皆バラバラなので、食べている人は3分の1ぐらいだろうか。

奈瀬さんや和谷君達は――


「オッス、進藤!」

「和谷、伊角さん、おはよー」

ちょうどすぐ後に二人がやってきた。

「おはよー、じゃねぇよっ!昨日一体どこで寝たんだかっ!」

「へへ〜、秘密♪」


…もしかしたら進藤と一緒に来るべきじゃなかったのかも。

二人が怪しがってる―。


「おい、進藤。お前まさか一晩中塔矢といたんじゃないだろうな?」

「だから秘密だって」

「うわっ、お前が秘密って言う時はだいたいイエスの意味だし」

「んなことねぇよ」

和谷君がストレートに進藤に聞き、伊角さんが遠回しに僕に聞いてきた。

「昨日夕食の帰りにゼミナール会場に行ったら、お前らの姿が見えなくてね。心配してたんだ」

「…場所を変えたんです」

「そう…」

「……」

微妙な気まずい雰囲気が漂う。

そして事態は更に悪い方に――


「おっはよ〜塔矢っ!」

「わっ!」

奈瀬さんが後ろから飛び付いてきた。

「ね、昨日帰ってこなかったじゃん」

「……ごめんなさい」

「どうして謝んのよ。祝福してるのに〜」

「……」

「進藤と一緒にいたんでしょ?で?で?ついに告っちゃったの?それとも告られた?」

「……」


本当にごめんなさい…。

僕らはあなた達の思ってるような関係じゃないんだ…。

少なくとも今は――


「おい奈瀬!お前さ、オレらのことに構ってる暇があったら、さっさと自分も彼氏でも探せよっ」

「うわっ!何よせっかく人がお祝いしてやろうとしてんのに!」

「それが大きなお世話だっつーの!お前には関係ねーじゃんっ!オレらのことは放っといてくれっ!」

「なっまいきー!17のくせにっ!」

「うるせぇっ!ババァ!彼氏いない歴19年っ!」

「うっわ!ムッカつくー!何様?!あんた!」

「悔しかったら彼氏の一人でも作ってみろよっ!」

「何よ!ちょっと自分がモテるからって!恋愛はね、量より質の方が大事なのよ?!あんたみたいに好きでもないのに次ぎから次ぎへと誘われるままに付き合っていく男って最低っ!」

「何だと?!」

「進藤なんて塔矢と付き合う資格ないわよっ!塔矢!さっさとこんな男フっちゃいなさいっ!」

「奈瀬さん落ち着いて…」


そろそろ止めないと嫌な予感がする…。

広間中の人がこっちを見てる。


「はっ!塔矢がオレをフれるわけねーじゃん!付き合ってもねーのにっ!」

「何よそれ!じゃあ昨日どこで何してたのよ!彼女でもない女の子と一晩中っ!」

「碁打ってたに決まってんだろっ!」

「どこで?!」

「何でお前に教えなきゃなんねーんだよっ!」

「どーせ手の早いあんたのことだから、どっかの部屋に連れ込んでイヤらしいことしてたんでしょっ!?最っ低っ!」

「だったら何だっていうんだよ?!いいじゃん別に!同意の上なんだしっ!」


ざわっ…


「進藤っっ!!!」

「あ……」

僕の叫び声にようやく進藤が我に返った。


でももう遅い…。

今の言葉で広間中の人が僕らの関係を知ってしまった―。



進藤のバカ…。











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