●WILLFUL PRINCE 4●


「そろそろ打つか?」


夕食会が始まって約2時間。

料理も一通り出終わって、お酒を飲んだ人の酔いが回ってきた頃――進藤が僕の隣りに来て、そう言った。


「そうだね、打とうか」

「あ、進藤鍵いるか?オレらの部屋で打つんだろ?」

「いいよ、会場で打つから」


部屋には旅館の人のはからいで、碁盤が1つずつ用意されている。

だけど進藤は囲碁ゼミナールの会場で打つ気らしい。

まぁ確かに夜遅くまで打ってたら、同室の和谷君や伊角さんに迷惑がかかりかねないものね。

碁石の音は結構響くから―。


「じゃあオレらは先に上がらせてもらうな」

「おー」

「また後でね〜、塔矢」

皆に適当に挨拶して、僕たちは夕食会の会場を後にした。



――あれ…?

「進藤、ゼミナールの会場はあっちだよ?」

「へへっ、いいから付いて来いよ」

進藤は会場とは正反対の方に歩き出した。

皆の部屋がある方向とも違う。

一体どこに…―



ガチャ


「ここで打とうぜ」

進藤が僕を招き入れたのは、僕たち棋士の部屋がある本館から一番遠い新館の部屋だった。

「誰の部屋…?」

ドアを閉めた途端、後ろから抱き締められ――耳元で囁かれる。


「オレらの部屋…」

「…は?」


そのまま髪やうなじやらにキスをされ、手を引っ張られて奥に連れて行かれる。

襖を開けると――丁寧に二つ布団が並べられていた―。


「オレさ、オマエと旅行すんの夢だったんだよな。でも忙しくてそんな暇なかったじゃん?だからこのゼミナールを利用させて貰おうかと思って♪」

「じゃあこの部屋…」

「そ、オレが自分で手配したの」

「……」

でも奥のテーブルにはちゃんと碁盤も用意されていて、進藤はそこに腰掛けた。

「打とうぜ」

「…ああ」



パチッ

パチッ



「……」


いまいち集中出来ないな…。


彼も同じらしく、さっきから甘い手と見落としの連続だ。

こんな対局…―


「…これ、打ち続けても意味ねぇよな」

「…うん」

進藤が先に言ってきた。

はぁー…っと腕組みして椅子に深くもたれている。


「…何がいけないんだろ。やっぱこの格好?それともこの部屋の雰囲気?」

「…両方だと思う」

「さっきからオマエの裸しか思い浮かばねぇ…」

「…僕も」

「んじゃ、とっとと始めますか」

「……うん」


お互い布団の上に移動した後、すぐさま進藤が僕を抱き締めてきた―。

「いい匂い…」

「温泉の香りかな…?」

「やっぱ温泉っていいよな〜。な、今度さ、部屋に温泉が付いてるとこ…一緒に行かねぇ?」

「何それ。また一緒に入ろうとか言うのか?」

「当ったり〜♪」

嬉しそうに腕の力を強めてきた。


「…キミってそんなことばかり考えてるの?」

「うん、最近すげーよ。一日中何しててもオマエのことばっか考えてる」


それは…僕自身のこと?それとも…―


「まずいよなー。手合いもさ、オマエと早く会いたいからやたらと気合いが入るし、オマエと打ってても早く抱きたくてこれまた気合いが入る」

「いいことじゃないか」

クスっと笑うと、進藤がその口に口付けしてきた―。


「…ん…―」

この感触がすごく気持ちいい…。

抱き締められて、彼に触れている部分が異様に熱くなる…。


「―…はぁ…」

進藤が僕の肩に額を押しつけた。


「いいこと…?本当にそれがいいことだと思う?」

「ダメなことなのか…?僕は嬉しいよ…?キミが僕のことを考えてくれてるなんて…―」

「…だって……オマエを手放せなくなる…―」

進藤は少し苦しそうに笑って、僕の首にキスをした―。

そのままゆっくり座らされて、体を布団に押しつけられた―。


キミは…僕を手放す気なのか…?

本当はもうこんな関係やめてしまいたいのか…?

やっぱりちゃんとした彼女が欲しくなった…?



「……塔矢さぁ、さっきの嘘だろ?」

「え?」

「オマエ言ったじゃん…。今は碁の方が大事だから…好きな人はいないって…」

「ああ、それのこと…」

「もし本当に碁の方が大事ならさ、今の対局…あんな打ち方してないよな?」

「……そうだね」


碁を打つより早くキミに抱かれたかったんだ…。

おかしいよね…。

僕は…碁以上に大事なものなんてなかったのに…。

ほんの少し前までは―。


「好きな人……いるんだろ?…誰?」

「……」


それ…本気で言ってるの?

本当に分からないの…?

それとも期待してる?

僕の口からキミの名前が出ること…―。


「……キミは?キミは好きな人…いるの?」

進藤が悲しそうな顔をしてきた。

「…おかしいな。何度も言ったはずだけど…?オマエのことが好きだって―」


そうだね。

何度も言われた。

でもこの状況で言われても僕は信じないよ?

キミは好きな人じゃなくても抱けるんだろ?

今までの彼女が皆そうだったもんね?

どうせ彼女達にもベッドの上では言っていたんだろう?

好きだって…。

愛してる…って。


「僕は信じない…。キミが好きな人以外でも抱けるって知ってるし…。僕だって…言ったよね?好きな人にじゃなくても抱かれることが出来る…。それを立証してくれたのがキミだ」

「…そ」


何を言ってるんだ僕は…。

僕もキミが好きって正直に言えばいいじゃないか。

そしたら全て丸く収まる。

確かに初めてした時は別にキミのことなど好きじゃなかった。

ただのライバルにしか思ってなかった。

だからあの日…


「オレのこと好き?一人の男として―」


と聞かれた時、答えることが出来なかった―。


だけど今は……。

僕はもうキミ以外の人に抱かれたいとは思わない―。


だけどね、僕はそれを絶対に口にしない。

キミが寝る時以外でも僕のことを好きって言わない限り――。



「…ぁ…っ―」


進藤が浴衣の帯を解いて、暴かれてきた肌にキスしながら舌を這わしてきた―。

胸を揉まれて、弄られて、吸われて――下にも触れてくる。

いつもより早いスピードで、少し乱暴に――容赦なく―。


「…っ…―」

痛っ…。

あまり慣らさないうちからどんどん指を増やされて、さすがに耐えられず進藤の髪をキツく引っ張った。

「進藤っ…もう少しゆっくり…」

「ごめん…今日は優しく出来ない…」



え…?



「挿れるぜ…?」

「え?ちょっ、ちょっと待って―」

「待たない」

「やっ…、あっ…っ…―」

強引に奥まで押し入れられて、感じることも出来ないまま…ただ痛みに耐えて、唇を噛み締めた―。


僕…キミに何かした…?

そんなに僕の言葉がショックだった…?

僕の涙は痛さによるものだけど、キミのその涙は……?


「進藤…」

垂れた涙を拭うみたいに、そっと進藤の頬に触れた―。

体を動かすことを止め、僕の肩に顔を押し付けてきた―。


「…塔矢……好き」

「うん…」

「好きなんだ…誰よりも―」

「そう…」

僕の素っ気ない返事に、彼はまた涙を溢れさせ、強引にそれを腕で拭った。


「塔矢…少し我慢してくれる…?」

「…うん」

そう言うと彼は少し悲しそうに笑って、また体を動かし始めた―。

「――っ…、あっ…」


痛いけど、ものすごく痛いけど…

でもそのうち、自然とそれは快楽に変わってくる―。


「…ぁ…っ、ん…ぁ―」

何度も突き上げられるうちに、僕も絶頂に近付き…―

久々に彼と一緒に達した―。


「はぁ…は…ぁ…―」

息を整えながら何度も唇を合わせて、お互いの存在を確かめあった―。


「…ん…―」

体から抜かれて、一瞬喪失感を味わう。

だけど、今度は彼の腕に抱き締められて…僕は幸せに浸るんだ。


このまま朝までずっと抱き締めていて…?


絶対に離さないでね…。











NEXT