●PRETTY WOMAN 8●
進藤の言い付け通り、懇親会はなるべく社の近くにいることにした。
社も既に彼女持ちだからか、僕が近くにいても迷惑じゃないみたい。
「へー、ついに進藤に告られたんか。よかったやん」
「うん…すごく嬉しい」
「結婚式には呼んでな」
「付き合い始めたばかりだよ?」
「いやいや、進藤のことだから絶対にそこまで先読みしてるで。ま、できちゃった婚にならんように気いつけや〜」
「で…っ」
できちゃった婚??
頭の片隅にもなかった言葉を使われて、僕の頭は一気にパニックになった。
そうか…そうだよね。
付き合うってことは、これからキスとか…それ以上のこともするんだ。
進藤と…。
想像すると顔が熱くなってきた。
「塔矢さん、ちょっと」
「え…?」
突然後ろから声をかけられ、振り返ると女流の二人がいた。
一人は社を落とすとか言っていた林さん。
僕が席を立つと、すかさず彼女が社の隣に座った。
「少しは遠慮してよね」
もう一人の子が、少し離れた所で僕に注意してきた。
「私達が社君や進藤君を狙ってるの知ってるんでしょう?それなのに懇親会が始まった途端社君とベタベタするなんて信じらんない」
「ベタベタなんて…」
「進藤君の車で来たのも有り得なかったけど!」
「………」
「とにかく、もう私達の邪魔しないでちょうだい!」
「………」
ツンと行ってしまった。
女の人って…異性が絡むとすごく怖い。
そりゃあ…僕だって、進藤を手に入れた今、彼がもし他の女性と一緒にいたら引き離しにかかるだろうけど…。
「………」
少し気になって、席も取られて居場所がなくなったことだし、こっそりDブロックを覗きにいった。
………やっぱり………
進藤の隣には予想通り葉月さんがいた。
進藤の肩に触れて…顔も胸も近付けて、思いっきりアピールしてる。
フツフツと今まで感じたことのない嫉妬心が湧いてくるのが分かった。
でも………足が動かない。
引き離しにかかるなんてこと、恥ずかしくて僕には出来ない。
進藤も進藤だよ。
なに楽しそうに一緒にお酒なんか飲んでるんだ。
僕と付き合うことにしたくせに―――
僕のこと好きだって言ったくせに―――
でも……このままだと彼女達の思うつぼだ。
優しい進藤のことだから、もし…このまま押されて彼女と既成事実作っちゃったりしたら……責任取るとか言い出すかもしれないし…。
そしたら僕は捨てられるのか?
―――嫌だ―――
「あらあら、すっかりあの女のペースねー」
「な…奈瀬さん」
後ろからにゅっと奈瀬さんが現れた。
はい、と鍵を渡される。
「負けちゃだめよ、塔矢。今こそ先手を打つ番よ」
「え?」
「私、朝まで部屋に帰らないであげる。林さんは社君にうまいこと言って引き止めといてもらうから」
「奈瀬さん…」
「ほら、行ってらっしゃい。早くしないと進藤の奴、葉月さんなんかにその気になっちゃうわよ」
「うん…ありがとう」
恐る恐る進藤と葉月さんに近付いていった。
「進藤。ちょっと…いい?」
「お、塔矢〜。なになに?」
向こうで話そうと出口を指さすと、進藤は後腐れなく
「すみません葉月さん。ちょっと抜けます」
と彼女に言ってくれた。
当然思いっきり僕を睨んできたけど、負けずと僕も睨んでやった。
いい気味だ。
「どうしたんだ?塔矢」
「別に用はないんだけど…」
「え?」
「私の部屋で少し話さない?」
「え…」
一瞬で何を想像したのか、進藤の頬が少し赤くなった。
心配しなくても、キミの想像通りだよ。
僕も顔を真っ赤にして彼の手を引っ張っていった――
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