●PRETTY WOMAN 6●
「進藤君の車で来るなんて信じられない」
僕とすれ違いに睨みながら女流の方々が会場に入っていった――
茫然と突っ立ってしまった僕を不思議に思ったのか、進藤がポンッと僕の肩に手をのせる。
「塔矢?入ろうぜ?」
「あ…、うん…」
女友達の少ない…というかいない僕に取って、こういう場合どういう行動をすればいいのか分からない。
彼女達のために進藤から離れるのは嫌だし…。
そもそも進藤を渡したくない。
もっと強気の態度を取ればいいのかな?
嫌な女だと思われないだろうか…。
「とーや♪」
「わっ!」
会場に入ると横から奈瀬さんに抱き着かれた。
進藤達と離されて、壁際に連れていかれる――
「見ちゃったぞー♪進藤の車で来るなんてやるじゃん」
「女流の人達には睨まれたけどね…」
「はは、いい気味〜♪で?例のやつはちゃんと進藤と買ってきた?」
「一緒には行ったけど……進藤は何だか投げやりだったよ。試着も見てくれなかったし…」
「うっそ、何やってんのよ進藤の奴ー」
チッと奈瀬さんが進藤の方を見ながら舌打ちした。
「いっけない!大盤解説の打ち合わせ始まっちゃうっ」
「頑張って下さいね」
「塔矢もね〜。指導碁の予約、すごいらしいわよ〜」
「はは…頑張ります」
奈瀬さんと離れて僕も自分のブースに向かった。
今日のイベントはA〜Dの四方4ブロックに分かれている。
僕はA。
進藤はD。
端と端もいいとこだ。
「塔矢先生、よろしくお願いします」
「はい」
まあ、指導碁が始まってしまえば近くも遠くも関係ないけどね。
「塔矢〜、お疲れさん」
「社。お疲れ様」
すぐ横のブースの社が、休憩時間になった途端に僕のブースにやってきた。
「あかん…なんやねんこの人の量。地方イベントとは思えんわ」
疲れたーと机に倒れ込んだ。
「麦茶飲む?」
「飲む!飲む!」
一気飲みした社は、チラッと僕の方を見て…続けて遠くのDブロックあたりを見渡した。
「進藤ここからやと見えへんなぁ」
「うん…」
「次の指導碁まで休憩一時間もあるんやし、ここに来るかと思ったんやけどなぁ」
「社と同じで進藤も疲れて動けないんだろ」
「のんきやなぁ塔矢は。向こうの女流と楽しくおしゃべりしてるんかもしれへんのに」
「………」
「覗きに行ってみる?」
「い…いいよ、そんなの」
「いいからいいから♪」
と僕の手を引っ張って、無理矢理Dブロックまで連れていく。
こそっと進藤のブースを覗くと………
「やっぱりな」
と社が笑う。
進藤と…女流の葉月さんが、仲よさ気に一緒のコーヒーを飲みながら話していた。
「………」
見たくないよ…こんなの。
僕は一目散に自分のブースへと帰った。
指導碁の続きが始まっても、頭の中がもやもやでいっぱいで……
たかが進藤が女性と話してるぐらいで嫉妬する自分が嫌になる。
そもそも彼女でもないのに…嫉妬なんておかしい。
彼は僕だけのものじゃないのに。
――夕方6時。
ようやく指導碁を終えた僕は溜め息をつきながらブースを出た。
「お疲れ様です、塔矢さん」
「え?えっと…」
出た途端に知らない棋士に名前を呼ばれた。
「俺、今年入段した高瀬って言います」
「…初めまして」
「昔っから塔矢さんの大ファンで、このイベントすっげー楽しみにしてたんですよ。ちょっとはお近づきになれるかなーなんて」
「………」
「次懇親会ですよね?席隣お邪魔してもいいですか?」
「え…」
なに…この人。
さりげなく肩に手まで回されて、会場の外まで連れ出された。
嫌だ。
気持ち悪い。
離して…――
「お前、何してんだよ」
え…?
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