●PRETTY WOMAN 5●
今日から始まる囲碁セミナー。
全国の若手と打ちまくれるこのイベントに、朝からオレは浮足立っていた。
碁も楽しみ。
だけど仕事で塔矢と一緒にいられるのがそれ以上に楽しみ!
おまけに今夜は星も見に行くし?
いい雰囲気になったら早速告っちまおっと♪
「進藤先生、14時から予約しておいた笠野ですが」
「あ、はい。どうぞー」
午後から始まったセミナーは、いつもの温泉イベント通り地元のお客さんとの交流会。
舞台の上で市長と対局してるのが、今年入段したばかりの奴ら。
解説はお客さん受けのいい伊角さん。
聞き手は会場盛り上げ役の奈瀬。
その他の棋士は指導碁に徹している。
オレや塔矢みたいに若手の中でもそれなりに知名度がある棋士は、それぞれブースが設けられていて、指導碁は予約制。
多面打ちしながら分刻みで何十人もを相手しなければならない。
ちなみにオレと塔矢のブースは会場の端と端。
直線にするとたぶん4、50メートルは離れてる…かな?
同じ会場にいるのに全く姿が見えなくてかなり寂しくなる。
ま、仕事だから仕方ないけど。
早く夜にならないかな…。
「進藤君、お疲れ様」
「え?あ…どうも」
休憩中――さりげなく缶コーヒーを渡してくれたのは、同じブロック担当の葉月女流五段。
今日もモノトーンでイベントも思いっきり仕事モード(戦闘モード?)の塔矢と違って、この人はかなり女性らしい服装。
リボンの付いたニットとタックフレアの白のスカートがかなり可愛い。
つか、オレ好み。
「やっと休憩ね。進藤君人気だから」
「はは…明日も70人近く予約入ってるらしくて、気分的に既にゲッソリです」
「えー大変っ」
「葉月さんの方はどんな感じですか?」
「ふふ、暇よ。お客さん同士の検討を見て回ってるだけだもん」
「へぇ…いいな」
「そういえば今日の懇親会ね、席順ブロック別らしいわよ」
「あ、そうなんですか?」
「一緒に飲みましょうね」
「はい、楽しみにしてます」
―――しまった!
今夜懇親会あるんじゃん!
うわぁ…やっぱ飲まされるよなぁ…。
車で塔矢と出かける計画がパァだし。
せめて塔矢と飲めたらいいけど………ブロック違うしな。
塔矢と同じブロックの社が羨ましい。
はぁ…。
「進藤、お疲れ」
「なんだ和谷か…。お疲れ」
「なんだとは何だ」
ようやく交流会が終わって、既にぐったりしてるオレ。
会場にはもう塔矢の姿はなし…か。
「温泉入りに行くだろ?着替え取ってこよーぜ」
「ああ」
まぁせっかく温泉に来たからな。
せめてこっちを楽しもう。
そう思って会場を出ると―――
――塔矢が男に肩を抱かれていた――
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