●PRETTY WOMAN 2●
「ねぇ塔矢さん。進藤君って今彼女いないんでしょ?」
「え…?」
手合いの休憩時間――僕は女流のお姉様方に囲まれてしまった――
「いない…と思いますけど」
僕がそう言うと、お姉様方はワッと一気に盛り上がり始めた。
「あ〜良かったー。私今度の温泉イベントで、絶対に進藤君をモノにしちゃお♪」
「葉月さんてばやだぁ〜」
「あーら、あなただって伊角君狙いのくせに」
「でも伊角君は桜野さんのガードが堅くてぇ…」
「林さんは社君が本命でしょ?」
「ええ。彼女いるらしいけど一般人みたいだし、この温泉で上手いことやってみせるわ」
彼女達が言っている温泉イベントとは、来週草津温泉で開催される囲碁セミナーのことだ。
セミナー自体はよくあることで珍しくも何ともないんだけど、この囲碁セミナーは少し変わっていて…開催目的が何と『若手棋士同士の交流』なんだ。
日本棋院はもちろんのこと、中部や関西棋院の若手棋士もほぼ全員強制参加。
最終日には手合いもそこで行われるという今までに例をみないセミナーだ。
もちろん一般のお客さんと打つ日も一応はあるけれど、それは最初の2日間だけ。
後のスケジュールは全て棋士同士の交流会に当てられていた。
そのせいでか……彼女達のような目的を持つ者も少なくはない。
ここ数日、男女共に皆妙に浮き足立ってるんだ――
「塔矢さん。私と進藤君の恋路、邪魔しないでね」
「え…?」
「あなたいつも進藤君の回りをウロウロしてるじゃない。別に進藤君のこと、好きでも何でもないんでしょ?だったら今度の温泉イベントの時ぐらい遠慮してよね」
「………」
「あなたにとっても棋士の彼氏を作るいい機会かもよ?お互い頑張りましょうね」
「はあ…」
「じゃあ良かったら温泉一緒に入りましょうね〜」
「………」
そう言いながら離れて行った彼女達と入れ違いに、今度は奈瀬さんが僕に近付いてきた。
「なぁにあの人達?感じ悪ーい」
「進藤に近付くなって…釘をさしに来たみたい」
「はぁ?近付いて来てるのは進藤の方でしょ?」
「ううん。彼は僕が近くにいてって頼んだから…側にいてくれるだけなんだ。一人になると色んな人から誘いがきて…」
「あはは、塔矢ってモテるもんねー。異性が側にいたら、告ってくる数が減るってことか」
「うん…」
奈瀬さんが続けてコソっと耳打ちしてきた。
「でもね、絶対に進藤の奴…塔矢のこと好きよ」
「え……」
一気にかぁぁと赤くなった僕を見て、奈瀬さんがクスっと笑ってくる。
「なーんだ。やっぱり塔矢も進藤のこと好きなんじゃん」
「それは……」
「アイツが聞いたら喜ぶわよ〜」
「………」
「ね、塔矢の方こそ今度の温泉イベントで進藤をモノにしちゃいなさいよ」
「ええ?!」
「進藤だって男だもん。色気むんむんのお姉様に迫られたら、その気になっちゃうかもしれないでしょ?先手を打つのよ」
せせせ先手?!
「む…無理です」
「大丈夫大丈夫。塔矢の容姿だったら、浴衣姿で布団に足ずらして座ってるだけで押し倒してくるわよ、アイツ」
「ええ?!」
いきなりそれも…困るんだけど…。
「進藤を取られてもいいの?」
「それは………嫌です」
「だったら頑張らないと!勝負下着付けて!」
「勝負下着…?」
「そうよ。絶対にさっきの人達、可愛くてセクシーな勝負下着持って行くわよ。塔矢も負けちゃダメよ!」
「でもそんな下着…持って――」
「ないなら今すぐ買って……そうだ!どうせなら進藤に選ばせなさいよ!アイツ好みのやつを」
「…は?」
「そうよ!絶対にそうした方がいいわ!私も彼氏に一度選んでもらったことあるけど、アイツ最初は嫌がってたくせにいざ選びだしたらやけに乗り気だったし。後でそれ着けてヤる時いつも以上にいい雰囲気になったしね。相手の趣味も分かって一石二鳥三鳥よ」
「………」
それ着けてヤる時って…
ヤるって…
僕と………進藤が…?
「赤くなってる暇はないわよ搭矢!善は急げよ!さっさと進藤連れて買いに行ってらっしゃいっ」
「はあ…」
「あ、試着してちゃーんとアイツにも見てもらうのよ?」
「………」
…なんだか奈瀬さんの言う通りにしたら変な女になってしまいそうだ…。
いや、世の中の女の子はこのぐらいが普通なのか…?
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