●PRETTY WOMAN 1●



「オマエってさー、何で自分のこと『ボク』って呼んでるわけ?」

「……見縊られたくないからだ。女だって…」

「ハハ、天下の塔矢アキラを見縊る奴なんていねーよ」

「でも…っ」

「『私』って言えよ。変な女だと思われるぜ?」

「……うん」





――塔矢がオレの言うことを素直に聞くようになったのは…いつ頃からだったかな。






「髪伸ばせば?せっかくサラッサラの綺麗な黒髪なんだからさ」

「…うん」



「あれ?目ぇ悪くなったのか?あーー!!ダメダメっ!メガネなんて絶対にダメだからな!オマエがするとインテリに見える!コンタクトにしろよなっ」

「…うん」



「オマエももう18だろ〜?いい加減化粧ぐらいすれば?オマエ色白いからさ、きっと化粧映えすると思うんだよなー」

「…うん」



「塔矢っていっつもズボンだよな。たまにはスカートも捌けって。乙女チックな服も絶対に似合うから」

「…うん」



オレの助言を素直に受け入れて、どんどん女っぽく綺麗になっていったアイツ。

元々美人だし、仕草も綺麗だし、育ちもいいし、純粋で可愛い所もいっぱい。

だから同時にどんどん男ウケも良くなっていった。

一人きりになるとそれを狙った男共がすぐに近寄って告ってくる。


それが嫌なアイツは

「なるべく側にいてくれ…」

とオレにお願いしてきた。


頼られるのはすげぇ嬉しい。

一緒に碁を打つのもすげぇ楽しい。

綺麗なコイツと四六時中一緒にいられるオレって、最高の幸せ者だよな!


……と思えたのは、悪魔で恋愛感情がなかった時までの話だ。

塔矢への想いに気付いてからは……一緒にいるのが辛い。

嬉しいけど…辛い。

オレだってその辺のオマエを狙ってる男と同じなんだぜ?

んな無防備にオレに近付いてくるな!

んな可愛く笑うな!

こら!服を掴むな!

オレに触るな!

勝手に腕を組むな!

胸を押しつけるなーーっ!!


繁華街を歩いてる途中なのに、今にも体が反応してしまいそうで……泣きたくなる。

つーか、今通り過ぎたラブホに引っ張り込んじまいたい。

塔矢の純粋な信頼を裏切るわけにはいかないのに……

コイツの泣き顔なんか見たくないのに……

理性が今にも本能に負けてしまいそうな自分が……情けない…――











「…進藤?聞いてる?」

「え?あ…ごめん。何の話だった?」

「だから、下着を買うのに付き合って欲しいんだ」

「………は?」

「もうすぐ泊まりの仕事があるだろう?場所は温泉だし…女流の人達に一緒に入ろうって誘われてて…。だけど今持ってる下着じゃ恥ずかしいから新調したいんだ」

ん…

ん……

んなのその女流の人達と買いに行けーーっ!!

母親と買いに行けーーっ!!

男のオレに付き合わせるなーーーっっ!!!


「それに最近大きくなったみたいで…キツいんだ。サイズも計り直した方がいいかな?」

塔矢が自分の胸を両手で少し持ち上げた。

そのせいで出来た谷間にウッとなる。

うう…どうして今日に限ってコイツこんな胸の開いた服着てんだよ…。

(って、オレが選んだ服だから文句も言えねぇし…。くそっ!今度から超超超清楚系ばっか選んでやる!)


「塔矢…、いくらオレでも女の下着売り場に行くのはちょっと…」

「でも、奈瀬さんは彼氏に選んでもらったって言ってたよ?勝負下着を買うなら絶対に私もそうした方がいいって」

こら!奈瀬!

変なこと塔矢に吹き込むな!!


「…あのな、塔矢。今度の温泉は別に勝負下着なんか必要ないだろ?」

「でも女流の皆は一つは持っていくって言ってたよ?交流会で意中の人に接近出来るかも…って。もしくはお客さんの中に素敵な人がいるかも…って」

「いるわけねーだろっ!どうせじーさんばーさんばっかだよっ!つーか仕事で行くんだぞ?!んな不純な目的持つんじゃねーよ!って女流の奴らに言っとけっ!!」

「き、キミを狙ってる子もいたけど…?」

「………マジ?」


一瞬ドキッとして、思わず頬が緩んでしまった。

そっか…。

オレ…今まで塔矢ばっか構ってたから知らなかったぜ。

オレを好いてくれてる子もいるんだな…。

なんか嬉しいかも…。

誰なんだろ…。

オレも知ってる子かな?


―――て

もちろんオレは塔矢一筋だけどな!












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