●PLEASE 1●
――その日
クラスの女の子が話してるのを偶然聞いてしまったんだ。
「聞いてよー。昨日すっごいショック受けたー」
「どしたの?」
「彼氏の部屋に行ったらさ、アレがあったわけ」
「アレって……アレ?」
「そうアレ。マジ、ショックだったんだからー」
アレって何だろう…。
「でもさ、普通あるもんじゃないの?」
「そりゃそうだけどー、量が半端じゃなかったのよ!何十冊持ってんのよっ!って感じで」
「うわー」
「おはよー。何の話してんの?」
「おはよう。この子の彼氏がさ、エロ本大量に持ってたって話」
「やだー」
そうか。
エロ本のことだったのか。
僕も昔そういう話を聞いたことがある。
僕らぐらいの年代になると、男子はたいてい皆隠し持ってるって。
ベッドの下とか、机の中とか、クローゼットの中とかに…。
本当なんだろうか…?
そもそも何で隠すんだろう…?
皆持ってるものなら堂々と本棚に置いておけばいいんじゃないのか…?
謎だ…。
ピンポーン
ピンポーン
ガチャ
「はーいっ」
「やぁ、進藤」
「塔矢、やっと来たー。遅かったじゃん」
「今日は6時間目まであったからね」
「ま、上がってよ」
「お邪魔しまーす」
バタン
いつもは放課後、囲碁サロンで打つことが日課になってる僕ら。
でも今日は進藤のお母さんが出かけているので進藤は留守番をしなくてはいけないらしく、それなら…と進藤の家で打つことになったんだ。
彼の家に来るのは3回目。
道も完璧に覚えていたから、予定よりも早く着けた。
これなら2局は最低でも打てそうだ。
「何か飲む?温かいのがいいよな?コーヒーでいい?」
「うん、頂くよ」
「んじゃ先オレの部屋行ってて」
「分かった」
進藤の部屋は階段を上ってすぐ左手の部屋だ。
風通しがよくて陽当たりもいいから、冬でも夏でもそれなりに快適に過ごせるらしい。
部屋の中央に碁盤が置いてあるので、僕はその前に座って彼を待つことにした。
「……そういえば」
僕はふと朝にクラスの子達が話していたことを思い出した。
進藤も一応男…だよな?
この部屋にもその類いのものはあるんだろうか…。
無意味にキョロキョロ見渡してしまった。
彼の部屋は意外にスッキリ整頓されてるから、パッと見は全然見当たらないんだけど…。
このベッドには隙間がないから下に置くことは出来ないし…。
本棚には漫画と囲碁関係の本しか見当たらない…。
これは…ゲームの攻略本だな。
こっちにはCD関係しかないし、これはビデオ…テレビ…冷蔵庫…机…。
机の上の本棚には教科書しかないな…。
机の引き出しはさすがに開けるのはプライバシーに反するだろう。
あとはクローゼット…か。
うーん…、やっぱり進藤は持ってないのかも。
彼は変わってるからな。
「…おい」
「えっ?!」
声に慌てて振り返ると、進藤がコーヒーを持って立っていた。
「なに人の部屋ジロジロ見てんだよ」
「ご、ごめん。ちょっと気になることがあって…」
「なに?」
「いや、あの…その……何でもない」
「何だよ、ハッキリ言えよ。気持ち悪いだろ?訳も分からず詮索されたら―」
「……」
どうしよう…。
言っちゃっていいのかな…?
「その……進藤も持ってるのか?」
「何を?」
「……イヤらしい本」
「なっ…!」
彼の顔が一気に真っ赤になってしまった。
「ななななんつーこと聞いてくんだよっ!オマエっ!」
「だってクラスの子が彼氏の部屋に大量にあったって言ってたから、キミの部屋にもあるんだろうか…って気になるのは道理じゃないかっ!」
「だからって…」
動揺してコーヒーを零しそうになったので、進藤は慌てて机の上にそれを置いた。
こんなに動揺している彼を見るのは初めてだ…。
ちょっと新鮮…。
「……で?持ってるのか…?」
「えっと…」
「どうなんだ?」
「んー……」
「進藤っ!」
「あーもー、分かったよ!持ってる!持ってます!」
観念して両手を挙げてきた。
「そうか。やっぱり持ってるものなのか…」
ふーん。
そうなんだ…。
男子は持ってるものなんだな。
女子には分からない世界だ。
ん?
待てよ。
どうして僕ら女は持ってないんだ?
性については同じぐらい興味があると思うんだけど…。
僕だって…興味がないわけじゃない。
一体何が書いてあるんだろう…?
「…なぁ、進藤」
「なんだよっ!まだ何かあるのか?!」
「いや…その、その本には一体何が書いてあるのかなって思って…」
「はぁ??」
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