●OH!MY GODLESS 1●
世間ではどうだか知らないけど、オレ達はオレ達のペースでいけばいいと思ってる。
塔矢が結婚まで処女を貫きたいと言うのなら、オレもそれに合わせてあげるだけ。
「すまない…」
申し訳そうに上目遣いでオレを見てくる塔矢は…ものすごく可愛かった。
「いいよ、別に。その代わり二十歳になったら即結婚な」
「ああ」
そう約束したのがアイツが17になる少し前の冬。
あれから3年。
ようやくその時がやってきた。
明日…塔矢が二十歳になる。
「今度のオマエの誕生日さー……一泊してもいい?」
デートの約束をした時に、事前に聞いてみた。
それは誕生日の日にプロポーズするから!と言ってるようなもの。
途端に真っ赤な顔になった塔矢は
「うん…」
と頷いてくれた。
それはOKするから、と既に教えてくれたようなもの。
婚約した晩に…ようやくオレら結ばれるんだな〜と思うと、今からドキドキわくわくそわそわする。
プロポーズはどんなシチュエーションにしようかな〜
どこのレストランに行こうかな〜
なに着てこうかな〜
ホテルはどこにしようかな〜
この数ヶ月、オレはそんなことばかり考えてた。
それを明日いよいよ決行するんだ!
そして迎えた12月14日―――塔矢の誕生日。
「結婚しよう」
予約したホテルの最上階にあるフレンチレストランで、オレは3年半付き合った最愛の彼女にプロポーズした。
「うん…いいよ」
塔矢が嬉しそうにも恥ずかしそうにも見える最上級の笑顔で…応えてくれた。
差し出した指輪をオレがそっと填めてやる―。
「ありがとう…。すごく嬉しい…」
「オレも」
前菜の時にしてしまったので、残りの料理を食べてる1時間……今までで一番甘い雰囲気がオレらの間で漂う。
いやいやいや。
まだ甘い。
今晩はもっともっと甘々のトロトロになるはず!
想像するだけで今にも下半身が暴走し出しそうだったので、頭を振って即座にその妄想をかき消した。
残す料理はデザード(+コーヒー)のみ。
慌てるなオレ。
落ち着けオレ。
このままいけば1時間後には塔矢と念願の初エッチだ。
このまま行けば…――
「キャーーーっっ!!!」
え…?
悲鳴の聞こえた方へ顔を向けると―――入口の方で中年の男性が女性の首にナイフを突き付けていた。
「何だ…?」
騒ぎ出す回りのお客にホールスタッフ。
「オーナー出て来いっ!!」
と大声で叫ぶその中年男。
呆然と遠くから見守ることしか出来なかったオレ。
男が更に女性にナイフを近付けた所で――前の椅子が引く音が聞こえた。
「と、塔矢?!」
一直線に入口に向かって行く彼女を、オレは止めることも出来ず…ただ付いて行った。
「バカなことはやめてください」
「あ?何だ姉ちゃん」
「その人を離してあげて」
「はぁ??アンタに関係ねーだろ。怪我したくなかったら大人しく引っ込んどけ」
「その人も関係ないはずだ。離してあげて」
「ウルセェよ!いいからとっととオーナー連れてこい!」
「離せ!僕が代わりに人質になる!」
「と、塔矢っ!」
更に男に近付いて行こうとした塔矢の腕をオレは掴んだ。
「何言ってんだよオマエ!んなことしたらオマエが…」
「離せ進藤っ!僕は無力な女性を人質に取るこの男が許せないんだ!」
「オマエだって無力だろ!オマエが代わるぐらいならオレが人質に――」
「はっ!」
男が鼻で笑ってきた…。
「図体のデカい男を人質になんか出来るか。つーかお姉さん、いいご身分だねぇ?こんなたっかいホテルのたっかいレストランで彼氏とデートかい?20やそこそこのガキが来る場所じゃねーんだよ」
「……あなたが来る場所でもない筈だ」
「あ?」
「ここのオーナーと何があったかなんて詳しい事情は知らない。だけど人としてこれだけは言える。あなたは間違ってる!」
「ウルセェよ…」
「こんなことをする度胸と時間があるなら、もっと他にいい手立てを見つけれた筈だ!」
「ウルセェっつってんだろがっ!!」
「塔矢っ!!!」
男が持ってたナイフを塔矢に向けて投げ付けた。
それは咄嗟に彼女を庇ったオレの胸にザックリと刺さって……
一瞬世界が止まって……
痛さがどうとかいう前に訳がわからなくなって……そのままオレは床に倒れた――
「進藤っ?!!」
最後に聞いた声は彼女の声。
最後に見えものは彼女の顔。
あー…良かった。
守れた。
ただ一つ悔いが残るとすれば……その彼女を一度も抱けなかったってことかな…――
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