●OBESITY MISUNDERSTANDING 1●
「………――!」
と言葉にもならない悲鳴をあげたのは、新しい年が明けてすぐのことだった。
「ふ…太ってる…」
お風呂場の体重計に乗った僕は、その重さに絶句してしまった。
食べ過ぎ?
運動不足?
どっちにしろ、このお腹の贅肉と太股はヤバい。
そういえば顔も少し丸くなったような…。
思い返せばこのお正月、新年会やら宴会続きで毎日ご馳走ばかり食べていた気がする。
打つ時間も少なかったから、その分脳も使ってない。
元々運動不足な僕は、頭を使うことによってカロリーを消費してたのに……
「どうしよう…。明日進藤に会うのに…」
年末年始はお互い忙しくて、会う暇が全く持てなかった僕ら。
明日は久々のデートで、二人きりで一日中ゆっくり彼の部屋で過ごすつもりだったのに…。
つまり…当然のように今年初のエッチもするつもりだったのに…。
「こんな体を見られたくない…」
すぐにお風呂場を飛び出した僕は、自室で腹筋を始めてみた。
人間、死ぬ気でやれば一日で痩せれる?
元の体に戻れる?
いや、何がなんでも戻らなければ!!
「塔矢、いらっしゃーい」
「や、やぁ…」
「あけましておめでと。今年も打ちまくろうな!」
「う、うん…」
「………」
明らかにテンションの低い僕を見て、進藤が訝しげに首を傾げてきた。
「塔矢…何か元気ねぇ?」
「そ、そんなことないよ。ただ…」
「ただ?」
体重が…
お腹の肉が…
太股が…
…なんて絶対口に出来ないけど。
うぅ…昨日あんなに運動して碁も打ちまくって食事も一切とらなかったのに、全く痩せなかった!
くそっ!
「あ。オマエもう昼メシ食った?」
「…ううん」
「じゃあ一緒に食べようぜ。さっきマックで買い込んできたんだ〜」
ま…マック?!
マクドナルドのことか?!
あのハンバーガーの?!
コレステロールの塊としか言いようがない?!
ぜ、絶対にゴメンだ…!
「僕は…遠慮しておくよ」
「お腹空いてねぇの?」
「うん…」
と返事をしたのも束の間、僕のお腹はぎゅるるるるーと大きな音を鳴らした。
途端に顔が真っ赤になる。
進藤が顔をしかめる。
「空いてんじゃん…」
「…そ…そうみたいだ…ね」
「やっぱ塔矢も食べようぜ。ちゃんとサラダとかも買ってあるからさ」
「……うん。じゃあサラダと飲み物だけ頂くよ…」
野菜と聞いてホッとしたものの、彼が買ってきた飲み物を見て再び僕は絶句する。
「進藤、これ…」
「コーラだけど?」
じょ、冗談じゃない!
絶対に御免だ!!
「僕…お水でいいよ」
「あー…ゴメン。昨日の晩にミネラルウォーター全部飲んじゃったんだ。あ、冷蔵庫ん中にお歳暮でもらったジュースがいっぱい入ってるからさ、好きなの飲んでよ」
「じゅ、ジュース…?」
恐る恐る冷蔵庫を開けると、色んな種類のジュースが大量に入っていた。
全て100%果汁。
明らかに糖質が多そうだ。
オレンジに…アップル…グレープ…マスカット…
一番カロリーが低そうなのは――
「え…、お前グレープフルーツなんか飲むの?」
「うん」
「不味くねぇ?苦いし…」
「そんなことないよ。慣れたら結構美味しいものだよ?」
「…ふぅん」
進藤が少し目を細めた。
確かに…僕も好きな方ではない。
でも、グレープフルーツのダイエットって聞いたことあるし、あの中だと一番低カロリーな気がする。
今は味よりダイエット優先だ!
「塔矢、メシ食ったら一局打つだろ?」
「そうだね」
「その後さ〜、…しねぇ?姫始め」
「え…」
「いいだろ?忙しくてもう半月近くご無沙汰だったし〜」
「………」
ど、どうしよう。
そりゃあ僕だってしたい気持ちは山々だ。
だけどこの体を見られるのは絶対に嫌だ!
「今日は……パス」
「え?何で…?」
「何ででも!」
「……」
断固拒否の体勢をとった僕を見て、進藤は眉を傾けて溜め息を吐いてきた。
「…分かったよ」
「ごめんね…」
「いや…」
ガックリと肩を落としてハンバーガーの続きを不味そうに食べ始める進藤。
ごめん。
ごめんね、進藤。
すぐに体を元に戻すから、少しだけ我慢してね――
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