●7 DAYS LOVERS 9●


家に帰ってから、先ほどの碁を早速並べてもらった。

「すごいね、見事な打ち回しだ」

「だろー?左辺がちょっとつぶれそうになったからさ、こっちを先にツケて守ったんだぜ」

「うん、いい手だ」

「へへ」

進藤が嬉しそうに鼻の下を擦った。

「結構もう連勝続いてるよね?」

「そうだなー…でもまだ10もいってないかな。2次予選決勝の壁が厚くてさぁ…」

はぁ…とため息をついた。

「まぁ相手が高段者ばかりになるからね」

碁石を片付けながら、これからだよと告げる。

「でもすげー楽しい!やっぱり強い相手と打つ方がやる気からして全然違うもんなー」

「そうだね…」

それは僕も賛同だ。



―でも、僕にとってはキミと打つのが一番…



「でもオレ、お前と打つのが一番楽しいかも」



―え…?



「オマエ打つたびに強くなってるし、何度打っても飽きねぇよ。オマエとだったら対局後の検討も嫌ってほど出来るしな」

鋭い意見言ってくるし勉強になる、と笑いながら言った。



―嬉しいかも…。



進藤も同じように思ってたんだ…。

顔が自然とにやけてくる。

「でもその検討が喧嘩のもとになるんだよなー」

…それも言えてる。

お互い顔を合わせて、どうにかならないかな…と笑った。



「オマエの方は?今日どんな碁だったんだよ」

「僕の方は―…」

片付けた碁石をまた一手目から並べ始めた。

…やっぱり、進藤とこうしているのが一番楽しいな…。

キミらしい。

まぁ…昨日とか…一昨日の夜の一面も…、またキミなんだろうけど…。

思い返すだけで顔から火がでそうだ…。

あの好きだと連呼された唇を思い出して…顔が赤くなる。


「塔矢?どした?早く続き打てよ」

「え?あ、ごめん…」

思わず手が止まってしまったみたいだ。

慌てて続きを打ち始めた。

進藤はすごい…。

今は碁だけに集中している。

どうしたらそんなに気持ちの切替えが素早くできるんだろう…。

僕はダメだな…。

ずっと引きずられっぱなしだ。

忘れようと思う度に思い出して―、どうしようもない…。

「ここ、オマエらしい一手だな」

「そ、そう?」

「うん、オレだったら中央からニラみをきかせるから」

「そうだ、ね」

「でもここは囲んだ方がよかったんじゃねぇ?」

「そうかも、ね」



「……塔矢?」

「え?何?」

「オマエ…変…」

その言葉にギクリとする。

「さっきから挙動不審すぎ。オレの意見にも全然文句つけてこねーし」

「…ごめん」

「いや、謝るとこじゃねぇし。何かあった…?」

何かあったじゃなくて、キミが何かしたんじゃないか!

「…僕には…出来ないよ…」

「何が?」

「キミのように…何もなかったように振る舞うこと…」

どうしても意識してしまう…。

「あ…」

進藤が気付いたように頬を少し赤めた。

「…オレだって出来ねぇよ…」


―え…?


「そんなに器用じゃねーもん…。今だってチャンスがあればオマエに…キスしようとか思ってるぐらいだし…」

そう…なんだ…。

「だけど!オマエそんなことばっかじゃ嫌だろうから…。それに約束したし…。オマエに触れさせてもらう代わりに…ちゃんと碁、打つって…」

そうだった…。

悪いこと言っちゃったな…。

進藤は進藤なりに僕のこと考えてくれてたのに…。

「そうだったね…ごめん。じゃあ続き検討しようか」

そう言って再び碁石を指で挟んで、打った瞬間―

手を引っ張られて――キスをされた…。

たちまち体を引き寄せられ、バラバラと碁石が床に落ちる音が聞こえた。

「…っ、は…ぁ、し…んどう?」

「オマエがいけないんだからな…せっかく我慢してたのに、誘うようなこと…言うから―」

荒れた呼吸でそう言われて、また唇を塞がれた―。

「…ん…っ」

すごく熱い…。

いつも以上に深く吸い付いてくる。

そして僕を抱き締めて…自分の体を畳の上に倒していった。

…進藤を見下ろすなんて、…変な感じだ…。

「重くない…?」

「全然…。しばらくこうしてていいか…?オレが上だと…すぐにでも理性が飛びそうで…」

「うん…」

抱き締められたまま…身動きがとれず、ただ唇だけが貪られる。

「…ん…っ、ん…っ」





どれくらいこうしていたんだろうか…。

頬にキスされたり、髪を撫でられたり…、進藤はずっと細かな愛撫を繰り替えしていた。

外はまた日が沈みかけている。

ようやく手が解かれて、お互い起き上がった。

「あー…そういや、オマエの対局を検討してたんだっけ…」

「いいよ…、今日のはたいした内容じゃないし…」

「…じゃあメシ食いに行くか?」

「うん…」


どこに行くか迷ったみたいだけど、結局は僕の家から徒歩数分の所にあるファミレスに入った。

まだ頭がぼーっとして、正直ご飯なんてどうでもよかった。

「塔矢…大丈夫か?」

「…うん」

「ごめんな…オレのせいだよな…」

「え…?」

「オレが一度に色々しちゃったせいで…オマエ、頭が混乱してんだろ…?」

そうなのかな…。

確かにそれもあるかもしれないけど…。

でも行為自体は碁のためって割り切ってるし…。

「やっぱ…嫌だったよな…。どうしても我慢出来なくなったら、すぐにでも言ってくれよ?オレ…すぐ帰るし…」

またそんなことを言う…。

帰るなんて言って欲しくない。

「嫌じゃ…ないよ?そりゃびっくりしたし、慣れないけど…」

信じられないぐらい気持ちよかったり…するし…。

その言葉を聞いて進藤の顔が緩んだ。

「マジで?嫌じゃない?」

「うん…」

「じゃあ今夜もしていい?」

「どうせ最初からするつもりのくせに…」

「あ…いや、まぁ…そうだけど…」

ははは…と進藤が苦笑いをする。

「あー…、体の方はどう?痛くねぇ?」

「うん…、今朝は昨日と比べたら全然…」

「そっか、良かった」

進藤がホッと胸を撫で下ろした。

「進藤…、話題変えない?」

「あ…そうだな、ファミレスでする話じゃないよな」

そうだよ…。

「じゃあ帰ったらまた打とうな!」

「うん」

「今日は勝たせてもらうぜ」

「僕だって」



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