●7 DAYS LOVERS 6●
時計は10時を回って、あたりはすっかり夜の静かさになっていた。
食事が終わってからは、約束通りずっと対局をしている。
1局目は普通に打って僕が勝ち、2局目は1手10秒の早碁をして進藤が勝った。
「今日はこの位にしとこーぜ」
「そうだね…明日は朝から手合いがあるし、早く寝ないと…」
そう言うと進藤が肩をガシッと掴んできた。
「約束忘れてねーよな?夜はこれからだぜ?」
「わ、分かってるよ」
改めて確認する進藤の目は、ちょっと怖かった。
今日一日よほど我慢していたんだろう。
「…じゃあ布団敷いてくるから、キミは先にお風呂に入っちゃって」
「えー!一緒に入ってくれる約束だろ?!」
「そんな約束はした覚えがないよ」
全く…。
しぶしぶ一人で入りに行く進藤の後ろ姿を後にして、僕の方は自分の部屋に戻った。
「はぁ…」
またここで昨日のようなことをするのかと思うとちょっと憂鬱になる…。
今朝の痛みはもう何ともないけど、また明日の朝あんな思いをするのかな…。
進藤の言っていた、2回目からはそんなに痛くないとかいう話は本当だろうか…。
本当だったらいいな…。
「あれ?そういえば石鹸切れかけてたっけ…」
今日の分ぐらいまではぎりぎりあったかな、と急いで浴室に向かった。
「進藤、石鹸まだ大丈夫?」
「ん?あぁ、なんとか」
進藤の声がお風呂場で反響して聞こえる。
じゃあ僕の時に足せばいいか…。
「塔矢〜、入ってこいよ〜」
まだ言ってる…。
「二人で入った方が時間の節約にもなるしさー、早く寝れると思うんだけどなー」
確かにそうかもしれないけど…。
「…じゃあ僕に触らないって約束してくれたら、いいよ」
出来もしないことをわざと言ってみる。
「うん、触らない触らない」
…嘘だ。
絶対嘘だ。
声が異様に明るくて、軽いノリの進藤に明らかにそう思えた。
―でも…
「じゃあ…入る…」
「え?!マジで?!」
進藤の下心は正直ちょっと困るけど、それでも入ってもいいかなと思ったのは…
―たぶん
もう何年も同世代の子とお風呂なんか入ってないから。
思えば小学校の修学旅行以来のような気がする。
中学の時の修学旅行には僕は参加していない…。
その頃はもうプロで、そんな5日も6日も仕事を休めなかったし…。
遠出の仕事で皆と泊まりになる時だって、ホテルの方が多かったから、いつも部屋に付いてるバスルームを利用していた。
一度だけ、旅館に泊まって芦原さんと入ったけど…、正直芦原さんは同世代とは言えない…。
7つも上だし…。
「…進藤」
「何?まだ?」
興味とは裏腹にやっぱり恥ずかしさが勝ってしまう。
「ちょっと向こう向いてて」
「…はいはい」
ちょっとガッカリしたような、やっぱりなと言う声で返事をして、体ごと壁に向けてくれた。
すりガラスの向こうに写ってるのが顔から黒い後頭部に変わったのを見計らって、恐る恐るドアを開ける…。
「僕が浸かるまで絶対こっち見たらダメだからな!」
「分かってるって…」
お風呂を濁り湯にしておいて正解だった。
浸かってしまえば首から下は見えないから…。
「入った?もういい?」
「…う、うん…」
へへっと笑って進藤がこっちを向いた。
「お前と風呂に入れるなんて夢みてぇ」
「うん…僕も…変な感じだよ…」
お互いちょっと頬が赤くなった。
「進藤は…和谷くん達とはよく入るの?」
「いや、全然。あいつん家の風呂ってせめーし、ユニットバスなんだぜ」
「そうなんだ…」
「というかさ、それ以前にあいつん家行ったら一晩中打ってそのまま雑魚寝しちまうから、風呂なんか入んねぇんだよな」
「…」
同世代の子が開く研究会ってそんなものなのかな…。
僕はお父さんの研究会以外あまり出たことなかったから…。
最近は他のにもちょこちょこ参加するけど、いつも夕方までとかで…。
「…にしてもお前ん家の風呂って広すぎだな」
ちょっと眉毛を潜めて進藤が呟いた。
「そうかな…?」
確かに標準と比べたら大きいかもしれないけど、広すぎって言うほどではない。
「だってお互い端と端にいたら全然お前とぶつかんねーし」
「…僕に触らない約束だろう?」
「そうだけどー…」
徐々に近付いてくる。
はぁ…やっぱり、…ね。
「どうせ後で触るんだし…ちょっと前哨戦しようぜ?」
鼻の先をあててそう放った口は、そのまま僕の口を塞いでいった。
「…ん……」
進藤の唇の熱さとお湯の熱さとで、いつも以上に頭がぼんやりしてくる。
「塔矢…好きだよ…」
キスの間にそう囁かれて、胸が詰まる…。
やっぱり進藤に好きだと言われるのは嬉しい…。
首筋に押しつけられた唇に思わず体を震わせると、進藤の腕が抱き締めてきた。
お湯の中だからか、お互いの身体がすごく軽い…。
そのまま背中を包みこみながら、腰をなぞってきて…脚の方へと撫で下ろされる…。
「…あ…っ…」
進藤の手が両脚の間に伸ばされて、思わず声が洩れる。
「なんだ…もう起ってんじゃん…。結構その気?塔矢…」
「そんなわけ…キミが触る…から…っ…」
性急な動きで擦り上げられて、体がビクリと浮く。
「や…っ、そん…な…いきなり…」
「早くしねぇと、お前のぼせるだろ?」
そうだけど…。
「…ん―、…っ」
掴まれてる指に力がこもって、どうしようもなく進藤にすがりついた。
目が潤んで視界がぼやけている。
進藤はますます体を合わせてきて、念入りな動きで追い込んでくる…。
「あ…ん…」
目眩がするような快感に…、速まる呼吸が抑えきれなくて、進藤の肩に口を抑えつけた。
反響した自分の喘ぎ声なんて聞きたくない。
「塔矢…」
進藤の唇が髪を噛んで、そのまま首筋を舌でなぞる…。
その行為にますます呼吸が速まり、こらえられなくなる。
「…あ…くっ」
もうどうすることも出来ず、そのまま放ってしまった…。
熱が抜けて息は整いかけても、温度の高さで頭がくらくらしている。
進藤の方も僕を抱き締めたまま、荒い呼吸をしてぐったりしていた。
僕より長い時間浸かってるんだから当然と言えば当然だ。
それでもまだ鎖骨のあたりにキスをしてくる所がすごい。
「塔矢…ごめん…、ちょっともう限界かも…。先、出るぜ…」
「うん…」
別に我慢大会をしてるんじゃないんだから、謝ることないのに…。
僕の髪に最後のキスをして、進藤は上がっていった。
僕も体を洗おうかな…。
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