●7 DAYS LOVERS 16●


「んー、これくらいかな?」

今朝は約束通り朝食を作り始めてみた。

ご飯ももうすぐ炊けるし、卵焼きも魚も上手く焼けた。

後はお味噌汁だけだ。

…けれどちょっと味見をしすぎたみたいで、正直味が分からなくなってしまった。

どうしよう…。


「いい匂い〜」

ようやく起きた進藤が台所に入って来た。

「おはよう塔矢」

後ろから抱き締めてきて、髪の上から耳にキスをしてくる。

「おはよう。ちょうど良かった、進藤これちょっと味見してみて」

小皿に少し注いで差し出してみた。

「どれどれ…うん、いいんじゃないの?」

おいしいよと言ってくれた。

「キミの家のと比べてどう?」

「え?うーん、オレ家じゃ朝はパン党だからなぁ…」

「朝でなくても夕食に出ることもあるだろう?」

進藤がもう一口飲んでみた。

「んー、もう少し濃かったかなぁ?」

「じゃあもう少し出汁を入れてみるよ」

出来れば進藤の家のものに近いのを作ってあげたい。

「これでどう?」

「…あんまり変わってないぜ?」

「じゃあもう少し…」

加減がよく分からないな。

「これは?」

「ちょっと濃すぎかなぁ」

「じゃあお湯をたすよ」


「……」
「……」



「と…塔矢、ゴメン、口の中がおかしい…」

「僕も…」

進藤がもう食べれたらなんでもいいからと言って居間の方へ逃げてしまった。

じゃあこれでいいとしようかな。

にしても…正直味見のしすぎでもうお腹いっぱいになってしまったんだけど…。



「んじゃ、いただきまーす」

「いただきます」

お味噌汁はともかく他のは大丈夫かなとちょっとドキドキしてたのに、進藤は何も感想を言わないまま話し始めてしまった。

ちょっとムカつく…。

「オマエ指導碁何時からだっけ?」

「16時からだよ。目黒だから近いし、15時過ぎに出れば余裕かな」

「じゃあそれまではオレと打てるな」

その言葉に思わず顔が緩んだ。

まだ8時過ぎだから2局は絶対打てる。

嬉しいな…。

「…そういえばキミ、昨日の晩…結局打ってくれなかったよね?」

「え?あー…だってせっかくお前と両思いになれた初めての夜だったし…」

あの余韻のまま朝を迎えたかった、と。

「オマエと打つとすぐケンカになっちまうだろ?それだけは避けたかったんだよ…」

それも―そうかな…。

「あー、オレ今すんげー幸せかも」

ご飯の途中だというのに、進藤が机の上に寝そべって言った。

「塔矢、オレのこと好き?」

「……好きだよ」

朝っぱらから何を言わせるんだか…。

顔がちょっと赤ばんでくる…。

「本当に?」

「…うん」

「じゃあ付き合ってくれる?」

「え…」

「嫌…か?」

「そうじゃないけど…」

いきなり言われて驚いた…。

そりゃ僕も付き合えたらいいなって思ったこともあったけど…。

…でも、ここで勢いにまかせて承諾してしまったら…。

何かとんでもことをしてるような気がして…。

もう少し冷静になってよく考えないと―。


「進藤…付き合うって…今とどう違うんだ?」

「どうって…」

進藤がちょっと考えこんだ。

「付き合うってのはデートしたり…キスしたり…」

「そんなの…今もしてるじゃないか」

「そう…だよな」

アレ?と進藤がまた悩み出した。

「要するに気持ちの問題だな!そしたら前みたいにオマエってオレの何なんだ?って思うこともなくなるし」

「恋人になるね」

「そういうこと。オマエが承諾してくれたら…な」

「……」

でもその分束縛される…。

進藤と付き合い出したら…、たぶん他の人と2人でご飯とか食べに行けないんだろうな…。

進藤ってすごく嫉妬深そうだし…。

でもそれは僕も同じかな…。

進藤が他の子と楽しそうにするのは嫌だし…。

まぁ彼と僕とじゃ友達の多さが違うけど…。

でももし付き合ったら…その大勢の友達より僕を優先してくれるのかな…。

進藤を僕だけのものに出来る…のかな。

それはいいかもしれない…。

「そしたら悩みも一つ減るしな」

「悩み…?」

「オレ…お前を抱いてる時すげー罪悪感持ってたんだぜ?碁のためにオマエ自分の体まで差し出してくるんだもんなぁ」

「それは…僕も同じだよ。進藤に碁を強要しちゃったし…」

「いや、同じじゃないだろ。オレはオマエと碁打つの元々好きだったし…。でもオマエはオレとあんなことするの…好きじゃないだろ?」

その言葉で顔が更に真っ赤になった。

「え…、なに…その反応?意外と好きだったり?」

進藤が意地悪く聞いてくる。

「そんなに良かった?」

「………」

お箸を持ったまま下を向いて固まってる僕の方に近寄って来た。

「どうなんだよ、塔矢ー」

顔を覗きこんで返事を促す。

「そ、そりゃ…始めは…恥ずかしいし痛いし…最悪だったよ…」

「じゃあ今は?昨日の晩はどうだった?」

進藤がわくわくした顔で聞いてくる。

「…やっぱり恥ずかしいし、痛かった…」

「……。何それ、変わってないじゃん」

ガッカリしたような声を上げた。

「ちぇっ、最初ん時よりかはずいぶんオマエも感じてたような気がしたんだけどなー」

「…分かってるなら、聞かないでくれ…」

その言葉を聞いて、進藤がニヤっと笑う。

「やっぱり良かったんだ?」

「……それも…ある…けど…」

「まだ何かあるのか?」

ちょっと躊躇したけど、深呼吸して話してみた。

「僕の…気持ちが変わった…。相手がキミだと思うと…痛くても我慢出来るし…、キミに求められてると思うと…嬉しくなる…」

胸が熱くなる…。

昨日言えなかったことを全部…言えた―。

進藤が目を見開いて、そのまま―抱き締めてきた。

「オマエって…最高―」

「進藤…?」

「すげー嬉しい…」

進藤の心臓がドキドキしてるのが伝わってくる―。

「…うん、僕も…嬉しいよ―」

背中に手を回して、僕の方もぎゅっと抱き締め返した―。

すると髪に…頬にキスをしてきた。

「うー、このまま押し倒してぇ…」

「…ダメに決まってるだろ」

さっき起きたばかりなのに。

「…じゃあキスだけ―」

僕の眼をじっと見て、ゆっくり瞼を閉じながら―深いキスが落とされる―。

「―…ん…っ…」

すごく幸せな気分だ―。

少し唇を離して―もう一度聞いてきた―

「塔矢…、オレと付き合ってくれる…?」

「―うん」

今度は躊躇なしに答えれれた。

「好きだ…塔矢―」

そしてまた深いキスをされた―。




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