●7 DAYS LOVERS 13●


僕の手を引っ張ってどこかに向かい始めた。

「進藤…!デートって…どこで!もう8時前だぞ!」

「すぐそこ!」

すぐそこって…進藤が向かってるのは繁華街じゃなくて、明らかに住宅街なんだが…。

こんなとこで――



え…?



「公園…?」

「そ、公園。いいだろ?お金かかんねーし、楽しいし」

進藤がさっそくジャングルジムに登り始めた。

「オレん家の近くにもあってさ、今でも結構行ってるんだぜ。オマエは?」

「僕は別に…。子供の時からあんまり来たことがない…」

「それオマエっぽい。外で遊ぶより中で碁打ってそーだもんな、オマエ」

進藤がハハっと笑った。

確かにその通りだけど…。

「ここに来ると落ち着くんだ。考えごとする時とか…ちょうどいい」

家の中じゃ煮詰まるし、と。

「塔矢も登ってこいよ」

「あ…うん」

手を差しのべてくれて、一気に登りつめた。



進藤が空を見上げて、ぼーっと見始めた。

月はないけど…かすかに星があった。

そういえば…進藤はよく上を見てるな…。

空が好きなんだろうか…。

「―もう…9月なんだよな…」

「そうだね…」

「オレ…この前16になった…。時間経つのって早すぎ…」

「うん…」

進藤が僕の手を握りしめた。

少し熱い…。

「お前と初めて会ってからもうすぐ4年だな」

「…うん」

あの時のことは今でも覚えてる。

キミが碁会所に来て――

僕はレベルの違いを見せつけられた。

その時から…ずっと僕は――




キミに夢中だ。




「キミ…あの時始めて碁石に触ったって本当…?」

「ん?いや、2回目…だったかな…?」

「2…回目…?!」

その言葉に唖然となる。

「1回目はじーちゃん家で打ってさ…打つのが遅いって呆れられた」

また進藤がハハって笑った。

確かにあの時のキミは打つのが遅くて…持ち方も下手だったけど…。

「でもそんなじーちゃんも院生になった頃には抜いてたっけ…。オレって天才かも」

「……」



―うん、キミは天才だよ。



「…やっぱお前がいたからだな」

「え…?」

その言葉にドキっとした。

「オマエがいなかったら、オレ…きっと学校の囲碁大会で満足してた」

「―僕も…すんなりプロの道を選んでただろうね…」

物足りなかったけど…きっとそうしてた。



――もしキミがあの時碁会所に現れなかったら、僕たちは全く別の道を歩んでいた――



「オマエ覚えてる?中1の夏休みの終わり頃にネットカフェまでオマエ押しかけてきてさ、オレがsaiじゃないって分かったら速攻オレを捨てやがった」

「あ、あれは…その…前日にsaiに負けてちょっと気が動転してたんだ…」

「あん時オレ、すげー悔しかったんだぜ。だから見返してやりたかった」

もう充分見返されてる…。

「それからはずっとオマエを追いかけて追いかけて追いかけて…」

進藤が僕の目を見た。

「―で、今は隣りにいる」

「…そうだね」

少しおかしくなって笑った。

その笑った唇にそっと進藤が触れてきた―。

「今日…帰ったら―…すぐ抱いていいか?碁は…後から打つから―」

今すぐオマエに追いついた実感がほしい…と言った。

「いいよ…―」

軽く唇を返して―返事をした。




僕も…キミが欲しい―。





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「あ〜いい湯だった。やっぱお前ん家の風呂って最高〜!」

お風呂上がりの進藤がご機嫌に居間に入ってきた。

「んじゃ塔矢寝ようぜ!」

「う、うん…」

そう進藤に言われて僕の部屋に一緒に向かった。

まだ9時過ぎだけれど。

進藤の言うこの「寝る」は睡眠の意味じゃない。

3日前に進藤が泊まりにきてからずっと同じ…




僕たちは体を合わせている―。




これは取引なんだ。

進藤が僕と打ってくれるための―。

3日前にその約束をした―。



―でも、いつまでこの取引は続くんだろう…。

口では取引だの約束だの言うけれど、それとは関係のないくらいキスしている気がするし…。

何だかその取引自体が口実のように思えてきた。

そして進藤は…体以外に僕の心も求め始め―

僕は碁以外にも何かを…進藤に求めている気がする――。

ちゃんとした答えが欲しいのに、ずっと続けばいいのに…と思ってしまう。

進藤は気付いているんだろうか…。

僕の気持ちの変化に―。

でも…僕の方からそれを口に出来るほどの勇気は…持ち合わせていない―。

君なら気付いてくれるよね…?



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