●NOTICE 4●
とりあえずデートの定番、映画を観ることにした。
誰もが知ってる海賊映画のシリーズ第4弾。
そういえばこれの1弾目は塔矢と観たんだった。
2、3弾は結局観に行けなくてDVDで。
「さくらさんはこのシリーズ、映画館で観たことある?」
「…1弾目だけ。2、3はレンタルで…」
「あ、オレと同じだ」
「……」
「誰と観に行ったの?…とか聞いてもいい?」
「……同僚とです」
「同僚?それって男?」
「そう…ですね」
「じゃあデートだ」
「…そうなるのかな?ただの時間潰しに誘われただけだったんですけど…」
「男ってつまんない理由付けて誘うものだから。オレもそうだったな〜」
塔矢と一局打った後で、和谷との約束までまだ時間あるから付き合えよって。
ならもう一局打とうと言ってきた塔矢を無理矢理引っ張っていったんだ。
一度くらい…塔矢と映画も観たかったんだよな。
「じゃあ進藤さんも女性と観たんですね。この前言ってた好きな人ですか?」
「はは…当たり」
「どんな人なんですか?…進藤さんから見て」
「はは…地味な女だよ。さくらさんとは大違い」
「……」
「でも…好きなんだよな。もう何年になるんだろう。中学の時には確実に好きだったから、もう10年以上…になるのかな」
「え?そんな前から…?」
「うん。意外?」
「い、いえ…」
さくらさんの頬が少し赤くなった。
……なんで?
映画館に着いて、無事席を確保した。
もちろんチケット代はオレ持ちだ。
「あ、じゃあ飲み物は私が奢りますね」
「え?いいよいいよ、今日は全部オレが払うって。オレがデートに誘ったんだし」
「駄目です。同い年なんですから」
ジュースに加え、ポップコーンもパンフも買われてしまった。
意外と男に甘えてこないさくらさん。
そんなところも塔矢に似てて、嬉しくなった。
塔矢も絶対に奢らせてくれない女だ。
『僕の方が給料多いんだから』
って、反対にオレが奢られたぐらい。
『キミに借りは作りたくない』
『男にこびるのは嫌いだ』
塔矢アキラは男社会で生きてるからか、どうも男を敵対視してるんだよな。
他の女流は普通に男の顔を立てて甘えてくるのに。
でも、だから彼女は強いんだと思う。
「寒くない?毛布貰ってきてやろうか」
「大丈夫です」
席に付いたところでちょうど暗くなった。
まずは他の映画の予告とか、結婚系のCMがエンドレスに続く。
結婚…か。
伊角さん達の年代がもうほとんど終わったから、次はオレや和谷とかの年代の番なんだろうな。
(越智はもう結婚してるけど)
塔矢も…いつかは結婚しちゃうのかな。
でもってオレは結婚式に招待されて、見たくもない旦那とのキスシーンを見せつけられて、心にもない祝辞を昔からのライバルとして述べさせられるわけだ。
想像したくもない。
このさくらさんと仮に上手くいって結婚出来たところで…塔矢の結婚を阻止出来るわけじゃないんだよな。
さくらさんが塔矢だったらいいのに。
実は本当は塔矢でした…なんてことないよな?
「………」
映画がスタートして一時間後、中盤のところでオレは寝る振りをしてみた。
もちろん本当は寝てなんかいない。
さくらさんの肩にちょっと凭れるのが目的だ。
顔を体に近付けて…匂いを嗅いでみた。
「……!!」
この香り……塔矢とそっくり……
顔が似てると匂いまで似るものなのか?
そんなわけ……
そんなわけそんなわけ……
「面白かったですね。でも進藤さん、途中寝てませんでした?」
「はは…バレてた?昨日あんまり寝れなかったんだ。今日が楽しみ過ぎてさー」
映画が終わった後、近くのカフェに入ることにした。
目的はひとつ。
彼女の指を、爪を見るんだ。
囲碁を初めたばかりの人は、オレらみたいに爪が擦り減ってない。
彼女のコーヒーカップを掴む指に注目した。
「き、綺麗な爪だね。つけ爪?」
「あ、はい。仕事柄ネイルは出来ないので…」
「あ……そう」
くそっ、つけ爪なんかされてたら本当の爪がどうなってるのか分かんねーじゃん!
こうなったら鎌かけてみるか?
オレと塔矢しか知らないことを何気なく話してみて…ボロが出たら…してやったり……
――って、本当にもし塔矢だった場合、どうすればいいんだ??
塔矢はもちろん逃げるだろう。
デートは確実に中断。
オレと塔矢の関係は確実に悪くなるだろう。
下手したらライバルという関係も危うくなるかも……
「あ、夕飯はオレが作るから。この前約束しただろ?」
「はい、楽しみにしてます」
こうなったら、さくらさんをモノにするしかない。
オレの部屋に来てもらって、逃げれない状態にして、程よくいい感じになったところで告る。
フラれたらもちろん計画はパァだけど、一か八かにかけるしかない。
でもって成功したらもちろん今夜は帰さない。
何がなんでも既成事実を作る。
作った上で、聞く。
いや、もう作ってる最中に聞く。
―――なぁ…オマエ塔矢だろ?
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