●NOTICE 3●
世の中には自分とそっくりな奴が3人いるらしい。
彼女は塔矢のそっくりさんなんだろうか。
それとも―――
「進藤、顔がニヤけ過ぎてて気持ち悪い」
「えー?へへへ〜」
塔矢そっくりのさくらさんに会った翌日。
オレは手合いで棋院に来ていた。
実はさ〜〜と一緒にエレベーター待ちをしていた和谷に話してみる。
和谷はオレが塔矢のことを好きだって知っている唯一の友達だ。
「は?茶髪の塔矢…?」
「そ。髪と棋力以外はそっくりでさー。嬉しくて思わずデートに誘っちゃったぜ!」
「ははは…何やってんだか。本人を誘えよな」
「…んな簡単に誘えたら苦労しないっての」
噂をすれば何とやら。
塔矢もエレベーターの方にやってきた。
「おはよう、進藤」
「…おはよ」
昨日の今日で、今度は塔矢をジロジロ上から下まで見てみた。
やっぱり似てる…!
さくらさんにそっくりだ!!
「なに?僕に何か付いてる?」
「べ、別にー?相変わらず地味なメイクに地味な髪型に地味な服だなーって感心しただけだよ」
「地味地味煩いな。派手な僕なんて僕じゃないだろう?」
「んなことねーよ、女は努力次第だって。絶対女の子っぽい服も似合うよオマエ。髪だってたまにはおろせ…ば…」
後ろで束ねていた髪を悪戯に引っ張ってやった。
―――その時だった
オレはこの塔矢の髪がいつもと違うことに気付いたんだ。
オレの知ってる塔矢の髪はまるで日本人形みたいな真っ黒なストレート。
すごくサラサラしてて…艶々輝いていて。
今は滅多に拝むことは出来ないけど、それでも年始のイベントで着物を着た時だけはいつも下ろしてあって…一部分だけ結っていて。
その時の塔矢がまた美しいんだ。
誰よりも輝いてる。
いつもが地味な分そのギャップがたまんないって言うか、まさに大和撫子っていうか……
と、とにかく、何が言いたいのかと言うと、オレは塔矢の髪が好きなんだ。
昨日会ったさくらさんも、黒髪ならもっとよかったのに…と思ったほどだ。
でも、今日の塔矢の髪はいつもと違う。
オレの好きな髪じゃない?
ツヤが少ない?
色も何だか人工的な黒って感じ。
そう、まるで夏休みに茶髪に染めた女子高生が登校日だけ黒に戻すような……そんな感じの……
「し、進藤。いつまで引っ張ってるんだ!痛い!」
「あ…悪い」
掴んでいた手をパッと離した。
納得のいかないままエレベーターが来て、オレは和谷や塔矢他、たくさんの棋士と一緒に乗り込んだ。
乗車率150%?
いや、ドアが閉まるってことは一応定員内なんだろうけど。
でも、とにかく密集密着してて、隣にいた塔矢とモロに体が当たった。
……いい香り……
がした。
オレが好きな塔矢の匂いだ。
この地味女が香水なんてものを付けるとは考えられないから、きっと塔矢自身の香りなんだろうな。
すっげー安心する。
もしいつか…コイツを抱けるチャンスがあったら、どこから香ってくるのかとことん調べてやろうと思う。
でもって塔矢を抱きしめて眠るんだ。
絶対熟睡出来るはず。
……なーんて有り得ない想像をしてしまった。
そんな日は絶対に来ないのに。
一生この気持ちを伝えるつもりはないのに。
だから昨日、さくらさんをデートに誘ったんだろ?
塔矢の変わりにする為に――
未練なく塔矢と一生ライバルだけの関係になる為に――
火曜日。
オレは約束の2時より15分も早く、待ち合わせ場所に到着した。
さくらさん…本当に来てくれるのかな?
結局一度も連絡がなかったけど……
「進藤…さん」
「え?」
呼ばれて振り返ると―――さくらさんがいた。
この前より清楚で丈も長い、白のワンピース。
肌も白いからすごく似合っていた。
お嬢様みたい。
シュシュで軽く横に結んだ髪は、キッチリ塔矢じゃ絶対に拝むことが出来ない髪型だろう。
「早いね、さくらさん」
「進藤さんこそ」
「いや、だって本当に来てくれるかどうか不安だったからさ、いてもたってもいられなくて…」
「あ…一度も連絡しなくてごめんなさい」
「いいよ。絶対連絡くれとは言ってないだろ?じゃ、行こうか」
「はい」
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