●NEW FIRST-STAGE SERIES 15●
京田さんと倉田先生の新初段シリーズも新初段側、つまり京田さんが勝利した。
終局したのが15時だったので、そのまま家で父の研究会をスタートさせる。
「どうだった?倉田先生との初対局は」
「緊張しました」
「でもいい人だろ。誰にでも気さくに話しかけてくるし」
「そうですね…。初対面とは思えないほどで、ちょっとビックリしましたけど」
「はは」
今日の対局を二人で並べながら、父と京田さんが倉田先生について話し出した。
倉田先生と父は幽霊の佐為が消える前からの付き合いだ。
たまたま訪れた囲碁フェスティバルで偶然出会ったのが最初だそうだ。
本因坊秀策の署名を偽物だと見破ったことから、父はいまだに倉田先生から秀策の署名鑑定士の称号を与えられている。(実際はもう鑑定は出来ないわけだけど)
倉田先生は今現在は天元のタイトルのみの保持だが、過去には本因坊、王座、碁聖のタイトルも取ったことがある。
父が21歳で初めて本因坊のタイトルを獲得した際も、倉田先生からの奪取だった。
「佐為はしばらく倉田先生とは打ってないんだっけ?」
「うん。最後に打ったのは一昨年棋院であったイベントかな…」
小6の夏休み。
あの日は祖父も祖母と旅行で不在、両親も遠征で不在、彩も精菜んちにお泊まり……ということで、僕は一人暇をもて余していた。
囲碁サロンにでも行くか…ネット碁でもするか…
その前に携帯で棋院のサイトにアクセスすると、偶然その日棋院でイベントが開催されていることを知った。
(ちょっと覗きに行ってみようかな…)
興味本意で出掛けてみた。
会場に着くと結構賑わっていて、夏休みだからか小中学生も結構いた。
「指導碁も受けれるみたいだよ。行ってみる?」
「えープロと打つんでしょ?無理無理」
前にいた女の子2人がそんなことを話していた。
(指導碁もあるんだ…。申し込んでみようかな…)
多面打ちの指導碁――僕の座ったあたりを担当したのが倉田先生だった。
パチッ パチッ パチッ……
倉田先生があっちの端からこっちの端まで、考える暇もなく即時に判断して次々に指していく。
僕はそんな先生の仕事ぶりをじっと眺めていた。
そして僕の盤の前に来ると、先生は足を止めた。
「んん?」
ちょっとだけ長考して、次の一手を指した。
そしてまた次の人に移る。
1周してまた僕の前で足を止める。
それを10回くらい繰り返した時。
「キミ、強いね」
と声を掛けてきたんだ。
「ありがとうございます…」
「あれ?キミどっかで見たことあるな……」
めちゃくちゃ顔を近付けて凝視してくる。
「…お久しぶりです先生。進藤ヒカルの息子の佐為です」
「そうだそうだ!進藤と塔矢の息子じゃん!何してんの?こんなとこで」
「あ…いえ、先生の指導碁受けてます」
「ははっ、そりゃそうだ!」
肩をバシバシ叩かれた。
「何?もしかして暇なの?まだいられる?後で一局打とうよ」
「あ、はい。ぜひ…」
こうしてイベント後、僕は一般対局室で先生と向かいあった。
「まだプロ試験受けないの?」
「来年受けようかと…」
「じゃあ互先は可哀想だからコミなしの先番でいいよ」
「あ、はい。お願いします」
「お願いします」
一時間後、倉田先生の1目半勝ちで終局した。
「強くなったなぁ。もうプロじゃん」
「ありがとうございます…」
「今何年生?」
「小6です」
「小6か〜。あの進藤と塔矢の子供がもう小6か〜。アイツらまだ20代なのになぁ」
「来月父は30になりますよ」
「え?マジ?そんなになる?」
「はい」
その後倉田先生にラーメンをご馳走になって、僕は家に帰ったのだった――
「へー、そんなことがあったんだ」
「うん。思ってもみなかった充実した一日になったよ」
「よかったな」
「うん」
その後、3人で京田さんと倉田先生の対局を検討して。
京田さんと僕が一局打って、また検討して。
この日も充実した一日となった――
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