●NEW FIRST-STAGE SERIES 12●





月曜日――週刊碁の発売日。


「彩、ちょっとコンビニ寄っていい?」

「いいよ〜」


学校に行く前にコンビニに寄って、僕は見事それをゲットした。

精菜(+父)が表紙にデカデカと載っているその新聞を――









「おはよーさん。お、週刊碁?」

「うん」

「愛しの彼女が載っとうもんなぁ」


西条も覗いてくる。

表紙は精菜と父の握手写真。

しっかりと結ばれている手。

ちょっと…ムカッとした。



「進藤、知っとうか?」

「…今度は何だよ?」

「今週の週刊碁もお前の時と同じ、普段の1.5倍刷ったらしいで、出版部」

「え…?」

「まぁ即日完売はないと思うけどな」

「…父が表紙に載ってるから?」

「まぁそれも確かにあるかもしれんけどな〜進藤本因坊のファンは多いけんなぁ。でもそれより、出版部はこの緒方精菜の美貌に目を付けたみたいやで?」




――え?




「確かにこの写真もよう撮れとうもんな。とても小5に見えん。お前が我慢出来んはずやわ」

「変な言い方するなよ…」



『緒方精菜降臨』


という見出しの週刊碁。

確かにフルネームでの紹介はレアだ。

『緒方』という名前でも売ろうとしてる思惑が明らかに見てとれる。


「これから心配やなぁ進藤」

「何が?」

「見た目のいい女流はテレビ放送のある棋戦の聞き手によく呼ばれるけんなぁ」

「……」

「きっとあっという間に人気出るで、お前の彼女」

「…そうかもな」

「お、余裕やん?」

「別に。僕は精菜を信じてるから…」

「信じるだけで報われたら苦労せんけどな」

「……!」


嫌味な奴だ。

でも、西条の言ってることは正論だ。

元モデルの母親似の精菜は誰から見ても美少女。

おまけにこの棋力……僕は週刊碁に載っている父と精菜の対局の棋譜を改めて見た。

末恐ろしい内容が記されていた。


当日もずっと対局をモニター越しに見ていて、京田さんと碁盤で並べていた。


「進藤先生…足らないな」

「そうですね…」


早碁オープンでも優勝した父。

つまり日本一早碁が得意なこの父に、精菜はものすごい勢いで攻め続けた。

モニター越しに父の表情を見ると、タイトル戦並みに険しい顔をしていて。

逆コミがどうとかいう問題じゃない。

この対局は結果、彼女の飛び抜けた囲碁センスを世間に披露することとなった。


「精菜ちゃん…今度はぜひ互い戦で打とうか」


終局後、父はそう言ったという。

ニコッと笑って、精菜はこう返した。


「おじさま、今度は公式戦で」


タイトルホルダーの父に公式戦で打つ――それはつまり、タイトル戦の本戦やリーグ戦での対局を意味する。

(やっぱり本気の精菜は恐ろしい…)





「明日から棋聖戦の第二局やな。青森やった?」

「うん。今日は前夜祭だね…」


つまり今日から3日間父の研究会はない。

でもって当然…緒方先生も留守だ。

どうしようかな…と悩む。

(精菜にメールしてみようかな…)


「進藤、今エッチなこと考えよんやろ?」

「え?!な、何で…」

「親がおらん間に彼女といちゃいちゃしよう思てんやろ?」

「んな訳…ないだろ?」

「あ、視線外した。やっぱ図星やなぁ?違うなら俺の目ぇ真っ直ぐ見て否定してみぃ」

「……」


真面目な僕は西条の目を見ることが出来なかった。

授業中、机の下でこそっと彼女にメールしてみる。


『今日の放課後、精菜んち寄ってもいい?』


敢えて用件を書かない、下心丸出しの文面。

向こうも授業中のはずなのに、すぐに返事が帰ってくる。


『いいよー♪』

と一言だけ。


「……」


そうか……いいのか。

二週間前の自分達の行動を思い出して、顔が直ぐ様赤くなったのが分かった。

あの時、確かに精菜は言った。


『いつでも触っていいからね』

と。

本当にいいのだろうか…。

あれから緒方先生に勝って、正式に許しをもらった。

一応名実ともに精菜はもう僕のものだ。

でも、だからと言って、まだあれから二週間も経ってないのに……




この日、僕は結局一日授業に集中出来なかった……










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