●NEW FIRST-STAGE SERIES 10●





「ちょちょちょちょー待ち!なんやその純愛物語は!」


西条が手振りを付けてツッコんでくる。


「お前んな聞いてるこっちが恥ずかしくなるような恋愛しとったんか?!」

「べ、別に普通だろ?小学生なんだから…」

「いやいやいや、レアやって。あれやろ?それでお前は初めて恋を自覚したとかぬかすんやろ?」

「悪かったな…初恋が遅くて」

「もう勘弁してー!おもろすぎて腹が可笑しくなるわ」

「話すんじゃなかった…」

「まぁまぁ〜。それでそれで?そこから付き合い始めたんやろ?で?純情進藤君の初チューは一年後とかなん?」

ニマニマ聞いてくる。


「いや、その夏休み…」

「おお〜意外と早いやん」

「……」











精菜が緒方先生に引っ付いて祖父の研究会に参加した帰り。

「僕の家でもう一局打とう」と一緒に家まで帰った。

始めて手を繋いで――


「彩は今日は家?」

「ううん。朝早くから出かけていったよ。何か有明?でイベントがあるんだって」

「へぇ…」



家に到着して、約束通り僕らは一局打った。

少しだけ検討もして、そして石を片付けだした。

二人きりは久しぶりで緊張した。

途中で指があたって、ドキリと胸が飛び跳ねる。

チラリと精菜の顔を見る。

赤くなってる。

可愛いな…と思った。


「精菜…」

「うん…」

「……いい?」

「……うん」


視線を合わせた僕ら。

ゆっくり顔を近付けて…徐々に目を閉じて。

ドキドキしながらそっと唇を合わせた――
















「ひー!もう勘弁してー!お前ら可愛すぎるわー!」


西条が大爆笑している。

やっぱり話すんじゃなかった…と僕は心底後悔する。


「いいんだよ、あれから2年も経つし。もう数えきれないくらいキスはしたし…」

「キスは慣れたってことか。そりゃそろそろ次の段階に進みたいわなぁ〜」

「…いいんだよ。後で後悔したくないから僕は4年3ヶ月待つよ」

「うんうん。もうそれでいいんちゃう?ほな4年3ヶ月後に感想聞かせてな〜♪」

「絶、対、に、嫌、だ!」














「おはよう、進藤君」

「おはようございます、京田さん」


1月21日――新初段シリーズ・第二弾、当日。

父と精菜の対局を見ようと、もちろん僕は棋院にやってきた。

ロビーで京田さんと会い、一緒に5階に向かう。



「そういえば見たよ、週刊碁」

「はは…」

「写真集みたいだったね」

「勘弁してほしいです…本当に」

「さっき外で進藤先生も写真撮ってたね」

「そうですね…」


僕の時は室内で撮った握手写真。

父と精菜は外での撮影となったみたいだった。

ちょっとだけ姿が見えたけど、今日の彼女はグレーのワンピースを着ていた。

落ち着いていて、とても小5に見えなかった。

精菜は身長も既に155センチを超えていて、平均よりかなり高い。

彼女のお母さんも170近くあるから、きっともっともっと伸びるんだろうなと思う。

(僕も頑張って伸ばさないと釣り合わなくなるな…)




5階に到着し、京田さんが検討室のドアを開けた。


「……!」


既に先客が一人――緒方先生だ。


「よう…佐為君」

「お、おはようございます…」

「おはよう。新初段シリーズは楽しかったな」

「…ありがとうございます。ご期待に沿えてよかったです…」


どこに座ろうか迷ったけど、仕方なく緒方先生の目の前に座る。

(京田さんは僕の横に座った)



「――で?あれから精菜とはどうなんだ?」

「……え?」

「もう一線は越えたのか?」

「!!」


緒方先生が直球で聞いてくる。

気まずくて、僕は下を向くしかなかった。

目なんて合わせられない。

緒方先生の目はちっとも笑ってなかったからだ。


「……い、いえ…まだです…」

「ほう…進藤の息子にしては上出来だな。褒めてやろう」

「……」

「まさか精菜の魅力不足とは言うまい?」

「そんな…まさか」

「ネックは年齢か?」

「……まぁ、そうですね…」

「もう少し大きくなるまで手は出さんと?」

「……そ…ですね」

「だが最近よくうちに来てるそうじゃないか。一体何しに来てるんだ?」



……え?



うっかり顔を上げてしまうと、まるで殺人鬼のような顔をした先生がいた。



「玲菜が言っていた。精菜の部屋のゴミ箱に、青臭い臭いのしたティッシュが捨ててあったと」

「……!」

「心当たりは?」

「……」

「もう一度聞くぞ?本当に一線は越えていないんだな?」

「……はい、一線は…なんとか」

「ふん」


緒方先生がタバコを上着から出した。

火を付けて、吸い始める。


新初段シリーズでのあの台詞。

カマなんかじゃなかった、先生に本当にバレていたんだと僕は俯くしかなかった――












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