●NEW FIRST-STAGE SERIES 1●
※※※注意書き※※※
「新初段シリーズ編」は中1×小5という大変若いカップルの性的描写が多々含まれます。
苦手な方、嫌悪感を抱く方は予めご遠慮下さい。
何でもOKよ、という方のみお進み下さい。
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『1月14日に決まりました』
棋院から僕の新初段シリーズの日程が決まったと連絡を受けたのは、年が明けてすぐのことだった。
相手は緒方棋聖、13時から、対局前に記念撮影もしますので早めに来てください、と一通りの説明を受ける。
「やっぱり緒方先生だって?」
電話が終わった後、リビングでテレビを見ていた父が興味津々に聞いてくる。
「うん」
「頑張れよ〜」
「もちろん」
おなじみ週刊碁の人気企画『新初段シリーズ』。
トップ棋士とあの「幽玄の間」で対局する、新人棋士にとっての初の晴れ舞台。
プロ試験に合格する前から、緒方先生との対局を意識せざるを得なかった僕にとって、いよいよかと気持ちが引き締まる。
「…そういえば、お父さんの時はおじいちゃんが相手だったんだよね?」
「…まぁな」
「一度棋譜見たことあるけど、ちょっと残念な内容だったね。緊張してたの?」
「…あれ打ったの、オレじゃねーもん」
「え?」
「佐為だよ」
「…そうだったんだ」
幽霊の佐為は祖父との対局を切望していた。
でも普通に考えて当時四冠だった祖父と、プロ試験に受かったばかりの父が打つ機会なんてそう簡単には持てない。
そんな時、祖父が新初段シリーズで父を指名してきた。
佐為にとってはこれとないチャンスだと思ったんだろう。
「普通にアイツに打たしたら、後が大変なことになるのは目に見えてたからさ。だからハンデを付けさせたんだよな。15目くらいハンデを背負えばアイツも普通に打てなくなるだろ?」
「それであんな内容になったんだね…」
「まぁな…」
「じゃあ、もしお父さんが普通に打ってたら、どうなってたんだろうね」
「え…?」
「逆コミだし、勝てたと思う?」
「んー…どうだったんだろな」
名人相手に新人棋士が5目半(当時)のハンデで勝てるだろうか。
僕も同じだ。
棋聖相手に6目半のハンデで勝てるだろうか。
緒方先生とは今まで数えきれないくらい打ったことがある。
初めて打ったのは物心すら付く前だ。
僕はずっと祖父に囲碁を習っていて、ずっと祖父の研究会にも参加していた。
その研究会で、毎回のように緒方先生にも打ってもらっていた。
でも最近は打っていない。
それはもちろん――僕が父の門下となったからだ。
「あれ?どこか行くのか?」
僕がコートを着出したので、父が尋ねてくる。
「うん。精菜と初詣」
「この前も行かなかった?」
「この前は彩も京田さんも一緒だったから。三が日が終わって神社も空いてきただろうから、今日は二人で行ってくる」
「ラブラブだねぇ」
「行ってきます」
「気をつけてな。精菜ちゃんに『よろしく』言っておいて」
「?うん…」
家を出発して10分後、僕は精菜の家に到着し、チャイムを鳴らした。
ピンポーン
「はーい」
――え――
すぐに出てきてくれた精菜は――振袖姿だった。
突然のあまりに美しい彼女の登場に、僕は言葉を失う。
長い髪もアップにしていて、綺麗に編み込んであって。
少しお化粧もしているみたいで、もうとても小学生には見えなかった。
「お母さんに着付けしてもらったの。…どうかな?」
「う…ん。いいと思う…、めちゃくちゃ可愛いよ…」
「本当?」
「うん…」
「じゃ、行こっか」
ご機嫌になった精菜が左手に腕を絡めてきて、僕達は駅まで歩き始めた。
振袖ということで、もちろん草履の彼女はいつもよりゆっくり目に歩く。
僕もそれに合わせた。
「着物久しぶりだから、歩くの遅くてゴメンね…」
「ううん。別に急いでないし、ゆっくり行こう」
「そういえば昨日、打ち初め式あったね。佐為のお母さんも着物だったんだよね?」
「うん。朝から着付けして大変そうだった」
「え?おばさん自分で着れるの?」
「まぁね。毎年のことだから」
「流石〜」
囲碁の日に合わせて1月5日に毎年棋院で行われる打ち初め式。
タイトルホルダーはもちろん強制参加。
僕の両親も緒方先生も出席し、新年の挨拶から始まって、公開対局や指導碁やらで一日大忙しだったらしい。
「おじさん写真攻めで大変そうだったって、お父さん言ってたよ」
「はは…」
打ち初め式はファンと棋士の交流の場でもある。
父目当ての女性ファンも大勢来ていて、昨日終日ひたすら笑顔でファンサービスをしていた父。
その反動からなのか、今朝は家でゴロゴロぐーたらしていた。
「…佐為も、来年は呼ばれるのかな…」
「どうだろうね…」
「…嫌だなぁ…」と精菜が小さく呟く。
「大丈夫だよ」と、僕は安心さすように、精菜の手を優しく、でもしっかりと握った。
「…おばさんは、平気なのかな?」
「どうだろうね…。でも昨日はお母さんの方も結構ファンに話しかけられたりしてたみたいだから……夜ケンカしながら帰って来たけどね…」
「え?そうなの?」
「……」
父は自分のことは棚に上げて、母に男性ファンが近付くのを許さない。
『笑顔振りまいてんじゃねーよ!!』
『仕方ないだろう!それが仕事なんだから!キミだって若い女の子にデレデレしてたじゃないか!』
『してねーよ!オレはオマエしか見てねーもん!』
『僕だってそうだよ!』
ケンカしながら帰ってきて、そのまま二人は寝室に向かい、しばらくこもってしまった。
小一時間後に部屋から出てきた二人は、それはもう…僕も彩も赤面してしまう程の雰囲気に変わってた訳だけど。
「まぁ…大丈夫だよ、あの二人は。何があっても落ち着くから」
「ふぅん…?」
「それより、さっき棋院から電話あったよ。新初段シリーズ、やっぱり緒方先生とだって」
「いつ?」
「14日」
「そっかぁ…。あ、私も連絡あったよ。21日だって」
「精菜は誰と?」
精菜がニコッと笑う。
「進藤本因坊と」
――――え?
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