●MEMORIES VALENTINE 2●
ピンポーン
「よう」
「いらっしゃい、待ってたよ」
出迎えてくれた塔矢はなぜかエプロン姿だった。
で、玄関まで匂うこの甘くて香ばしい香りの正体は…
「チョコクッキー焼いてたんだ。ちょうど出来たところだから、ちょっと待ってて」
「オレ用?」
「まさか、門下に配るやつだよ。でも多めに作ったからキミの分くらいは余るよ」
「はいはい、余りものね。アリガトウゴザイマス」
くすくす笑った塔矢が、先に居間に行っててと指差してきた。
塔矢ん家で打つのは久しぶりだ。
しばらく先生達帰ってきてたのに、またどっかに行っちゃったらしい。
つまり、二人きり。
しかも、バレンタインに。
「…今日(彼氏と)予定なかったのか?」
「キミが今日しか空いてないって言うから変更してもらったんだよ。リーグの第五戦、早めに検討しておきたかったし」
「あ…そう」
「キミの方こそ予定は?珍しいね、バレンタインが空いてるなんて」
「別にー。オレだって彼女がいない時ぐらいありますよーだ」
「あ、今フリーなんだ?」
「そ。寂しい一人者」
「仕方ない。じゃあ僕が相手してあげる」
握るよ、とご機嫌に塔矢が碁笥に指を入れた。
対局に検討。
検討しては対局。
塔矢と打ってると時間はあっという間に過ぎる。
それはあの7年前も同じ。
でもあの時と違うのは―――塔矢の外見だ。
中身は昔のままの碁バカだけど、外見はもうどこからどう見ても女。
綺麗に真っ直ぐ腰まで伸びたロングヘアー。
膨らんだ胸。
引き締まったウエスト。
程よく出たヒップ。
ついでに言うと柔らかそうな唇。
化粧が薄いからピンクの頬がよく分かる。
あれ?目がちょっと吊り上がってる?
「進藤…どこ見てるんだ。集中しろ」
やばっ…
「あー…ちょっと休憩しねぇ?腹減った」
「じゃあさっきのクッキー食べる?」
「おう」
クッキーにケーキもコーヒーも付いてきてお茶がスタート。
クッキーもケーキも超美味い。
「このケーキは市河さんからなんだ。バレンタインだからって」
「オマエ相変わらず女から貰ってるんだな」
「うーん…そうなんだよね。市河さんはともかく、知らない女の子から今年も結構チョコレート送られて来たし……まだ男に間違われてるのかな」
「さすがに今はもうないだろ。単にファンなだけだって」
「うん…そうだと思うんだけどね」
小さな溜め息をついて、塔矢がコーヒーのカップに口付けた。
続いてクッキーを一つ摘んでみて、上手く焼けたのが嬉しいのかたちまち笑顔になった。
うーん……何か目で動きを追ってしまう。
お?目が合った。
塔矢もじっとオレを見つめてきた……
「…今日、バレンタインだろう?実は進藤と家で打つって約束した時……ちょっと、アレ…思い出しちゃった」
彼女の頬が少し赤くなった。
「あ、オレも…実は」
お互い苦笑い状態だ。
「あの頃のオマエ…マジ男みたいだったもんな。でも何も脱がなくてもさー」
「僕の痛い過去、断トツのNo.1だ」
「はは」
「でも…今は胸だけでも性別が分かるだろう?」
自分の乳房を持ち上げて、大きさをアピールしてきた。
思わずちょっと…唾を飲み込む。
「また触ってみる?」
「は?な…なに言っ…、か、からかうなよ!」
「冗談だ」
「オマエなぁ…」
「嘘。本当はちょっと本気。キミに…確かめてもらいたくて」
え……?
あの時と同じ。
オレの手を掴んで……自分の胸に押し当ててきた。
柔らかい感触。
勝手に手が揉み始める……
「…どう?僕…普通の女になっただろう?」
「あのさ…塔矢。こんな誘うようなことして……オレが我慢出来ると思ってる?」
「あの時も我慢出来なかったくせに…」
今にもキス出来そうなぐらい塔矢が近寄ってきた……いや、もう今一瞬…唇触れたかも。
いやいや、こんなのキスじゃないし。
「…塔…矢…――」
「―……ん……」
胸に触れてない方で彼女の顎を取って――本当のキスをした。
あえて濃厚で激しいやつ。
どうだよ?
オレもキス上手くなった?
セックスも上手くなったんだぜ?
確かめてみる?
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