●MEMORIES VALENTINE 1●






――誰にだって忘れられないバレンタインぐらいある――





オレにとって今でも記憶に残るバレンタインと言えば……やっぱ16歳の時のバレンタインだと思う。


あの日の午前中――オレが用事で棋院に行くと、事務の人がチョコレートを渡してくれた。

しかも1つじゃない。

確か10個を超えていた。

北斗杯の様子がテレビで流れたから、その影響でファンがついたらしい。

前の年まではせいぜい母親か、幼なじみのあかりか、奈瀬が義理で配りまくってたやつぐらいしかもらったことなかったから…ちょっと嬉しかった。


午後からは塔矢の家に行って打った。


「オレ、今年結構チョコもらったんだぜ」

と自慢してみせると、

「ああ…そういえば僕も貰ったな」

と、アイツが返答。


は?


「オマエ女だろ?」

「知らないよ。棋院に行ったら渡されたんだ」


塔矢が向けた視線の先には…紙袋いっぱいに詰まったチョコの山があった。

うわ、女のくせにオレより断然多い。

ちょっとムカッ。


「…オマエ男と勘違いされてんじゃねーの?」

「そんなこと…ないと思うけど」

「そうか〜?だってぱっと見男じゃん。胸だってないし」

「す、少しはあるよ」

「へー、どこに?」

「疑うなら触ってみればいいだろ」


塔矢がオレの手を掴んで、自分の胸に押し当てた。

…でも、例え押し当てた所で…無いものは無い。

本当に真っ平で、返ってオレの方が驚いた。


「…全然分かんねぇんですけど。やっぱ男なんじゃね?女流タイトル返上すればー?」


オレもちょっと言い過ぎたのかもしれない。


でも、だからって……何も脱ぐことないじゃん……



「これでどう?ほら、ついてないだろ?」

「オ、オマエな……」


16じゃさすがに女の裸に免疫がなかったオレは、当たり前のように顔が火照った。

そんなオレを見て塔矢も我に返ったのか、慌てて服を着出した。

でももう遅いっていうか…なんというか。

変な雰囲気になっちまって、まだ昼なのにトークは深夜番組?

下ネタ一直線?


「オマエって…人前で脱ぐの慣れてんだ?」

「そ…そんなわけ…。今のは…その」

とか。


「セックス…とか、実はしたことあったり?」

「あるわけないだろう!!……キミは?」

「……ない」

とか。


「興味ある?」

「……ないと言ったら嘘になるけど…」

とか。


「じゃ、ちょっと…してみねぇ?」

「え…キミと?」

「いや?」

「………別に」

とか。


「胸もさ、男に揉んでもらうと大きくなるらしいぜ?」

「…本当に?」

とか。



何かオレも塔矢も、よく分かんないまま……始めちゃったんだよな…。


でも知識不足でどうすればいいのかなんて全然分かんなくて…なすがまま。

もうなるようになれ!って感じだった。

初めてだった塔矢は当然めちゃくちゃ痛がったし。

オレだって余裕なんかないから…そんなの全く気にしてやれなくて。

あー…そういえば今思えば付けてもなかった。


ま、とにかくお互い青かったんだよな!って話。

今となればいい思い出だ。


一回エッチしたからって、それから付き合ったとかでもなく。

その後オレは普通に告白してきた女の子と恋愛して。

塔矢も塔矢でモテまくってたみたいで勝手にやっていた。



気づけばオレらももう23。

もう7年も前のことなのに…何でこんな昔のこと、急に思い出したんだろう。


きっと今日があの日と同じバレンタインだからだ。


でもって今、塔矢ん家に向かう途中だからだ―――













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