●MEIJIN おまけ 5●〜佐為視点〜
(まただ…)
僕の18歳の誕生日、当日。
取材の予定が数件入っていた為、僕は朝から棋院に向かっていた。
家を出た瞬間から違和感があった。
(付けられてるな…)
と――
今までももちろん週刊誌の記者に後を付けられたことはあったけど
やはり三冠になったことが影響してるんだと思う。
そして今日が僕の誕生日ということももちろんあるんだろう。
もし僕に恋人がいるなら、絶対に今日はどこかで落ち合うはずだと
『プレゼント渡したいから、今日佐為の家に行くね』
と言っていた精菜。
昼間は補講が入ってるから夕方になると思うとも言っていた。
(困ったな…、今日来るのはやめてもらうか…)
(いや、彩を上手いこと使えばいけるか)
なんせ精菜は僕の恋人であると同時に、彩の親友でもある。
僕の家に精菜が来た時に、迎え入れるのが彩ならば記者も勘違い
棋院に着き、午前中は取材を受ける。
昼からはフリーになったので、一局打つ為に京田さんちに向かった
「いらっしゃい。あと誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。お邪魔します」
京田さんの後に続いてリビングに行くと、当たり前のようにソファ
「げ…、お兄ちゃん何しに来たの?」
「もちろん京田さんと打ちに」
「えー、私と京田さんの貴重な時間を邪魔しないでくれる?」
「毎日会ってるくせに貴重も何もないだろ」
「毎日じゃないもん。最近は週4くらいだもん。ね?京田さん」
「はは…、そうだな」
京田さんと早速碁盤を挟んで向き合う。
彩もなんだかんだで気になるのか、京田さんの斜め後ろに座って観
「…あ、すみません。そういえば今日は朝から記者に付けられて
「え?」
「僕が帰ったら記者もここから撤収するとは思うんですが…、一応
「はは…、進藤君も大変だな。やっぱり今日が誕生日だから?」
「おそらく…」
「まぁ今日土曜だし、もし進藤佐為に恋人がいるなら絶対今日は会
僕らの会話を聞いた彩が
「え?!お兄ちゃんヤバっ!まるで芸能人じゃん!」
と少し興奮していた。
「で?実際のところどうなの?緒方さんとは今日会うの?」
「精菜は夕方まで学校で補講があるので、一応それが終わり次第家
「え?!お兄ちゃんそれヤバいじゃん!精菜にちゃんと言った?!
「いや、まだ…」
「もーダメじゃん!精菜は私が連れて行くから!」
彩が携帯で早速LINEし出す。
『精菜!お兄ちゃん今日記者に後付けられてるから、私が迎えに行
確かに彩が親友の精菜を引き連れて家に帰って来るのなら、何の不
それが一番安心で安全策だ。
「ありがとう…彩」
「貸し2だからね!」
貸し1はもちろん女流本因坊戦の高松だろう。
「分かってるって。彩が京田さんちに泊まりたい日があったら、ち
「期待してるわ♪」
京田さんの頬が少しだけ赤くなっていた。
2時間後、一局打って検討も終えた後、僕は京田さんちを後にした
記者はまだいて、僕が移動すると付いてきた。
もちろん後は家に帰るだけなので、ガッカリさせてしまうことだろ
15分後、家に到着し、自室のカーテンの隙間から外を伺う。
記者2人が何かを話している。
おそらく、今日はもう出かけないんじゃないか?とか。
やっぱり恋人なんていないんじゃ?とか、そういう内容だろう。
クスリと笑って、僕はカーテンを閉めた。
夕方5時半を回ったところで
「ただいま〜」
と彩が帰って来た。
PCを触ってた僕は即座にシャットダウンして1階に向かう。
「佐為♪」
「精菜、いらっしゃい」
一ヶ月ぶりの生精菜に勝手に顔が緩む。
「僕の部屋に行く?」
そう誘うと、彩が
「お兄ちゃん、皆いるのに精菜に変なことしないでよ?」
と忠告してくる。
リビングには父と双子、台所にはもちろん母の姿もある。
「しないから」
精菜と一緒に階段を上がり、部屋に招き入れる。
彼女が僕の部屋に来るのは、あの8月に泊まってくれた時以来だ。
(あの時はまだ名人戦が始まる前だったよな…、懐かしい)
「佐為、お誕生日おめでとう」
精菜がカバンから包みを取り出して来た。
「ありがとう。開けてもいい?」
「うん」
細長い箱だから、だいたいプレゼントの想像はつく。
中に入っていたのはもちろんネクタイ――ともう一つ。
「これ…」
僕が手に取ったのは……扇子だ。
広げて、僕は目を見開く。
そこには精菜の直筆で揮毫されていた。
『叶――緒方精菜』
と――
「えへへ…、佐為の夢が叶った記念に」
「ありがとう…、すごく嬉しいよ。今週の対局はこれ持って挑もう
「え〜いいけど、うっかり扇子広げないでね?中継入るんだから」
「気をつけるよ」
もちろんネクタイも早速次の対局で付けてみようと思った。
「本当におめでとう佐為…。ついに18歳だね」
精菜がぎゅっと僕に抱き着いて来る。
「今日からは僕…、いつでも結婚出来るらしいよ」
「えー…、誰と結婚する気?」
彼女の頬にキスをして…、耳元で
「もちろん精菜しかいないよ…」
と囁く。
「…ありがとう。その日を楽しみにしてる…」
「うん…、僕もだ」
僕らはそっと唇を合わせ始めた。
記念すべき18歳の誕生日。
精菜に直接祝って貰えて、最高の誕生日となった――
―END―
以上、佐為の18歳の誕生日の一日でした〜。週刊誌の記者に付けられる佐為です(笑)
十段を取った直後からちょくちょく付けられてるので、実はもう慣れてたり。
でもホテルで精菜の部屋を訪ねたり、緒方家にもしょっちゅう行ってるので、記者に本気で張られてたらバレバレだと思いますがね。
にしても京田さんちに打ちに行ったら妹がソファーでゴロゴロ漫画読んでたら嫌ですね…。
京田さん…彩を自由にしすぎでは??でもって昼ごはんとかも作って出してあげる京田さんですからね…。
もう完全に彩に寄生されてますね(笑)惚れた弱みで許せるのでしょうか…。
『夢』の扇子を昔もらったので、お返しに『叶』の扇子をあげる精菜です。夢が叶ったからね。
この扇子は佐為に生涯大事に使われることでしょう。遠征で精菜と何日も離れる時とか持っていきそうですよね。
これにて名人戦話は完結となります!
最後まで読んで下さりありがとうございました!