●MEIJIN 9●





「京田さん大丈夫かなぁ…」

「なに他の男のこと考えよん?」


部屋に戻ってくるなり悠一君に後ろから抱き締められた。

そのまま布団の上に倒される。


「悠一君…」

「で?京田さんが何て?」

「ううん、さっき温泉で進藤さんが…今夜は京田さんが求めてくるまでしないって宣言してたから、ちょっと気になっただけ…」

「そんなん、心配無用やって」

「え…?」

「彼女と温泉来てて、その気にならん男やこの世におらんわ…」


そう言いながら悠一君が私の首筋に吸い付いてきた。


「……ぁ……」


悠一君も既にその気になってるらしく、瞳は熱を帯びているように見えた。

そういう私も気持ちも体も準備万端だ。

今夜は一晩中一緒にいられるから、たくさん肌でも愛を確かめれたらいいなぁと思った――





私の家は門限がある。

もちろん彼氏とお泊まりなんてもっての他で、きっと両親は今でも私が処女だと信じていると思う。

そんなもの、中3で捨ててやったわ!と鼻で笑いたくなる。

彼氏が出来たら早かれ遅かれ最後までするのが今の常識だ。

むしろしない方が異常。

結婚まで貞操を守る女なんて、この令和の時代に存在するはずがない。


そう思うのに……私は今日一日、緒方さんと進藤さんとばかり写真を撮ってしまった。

まるで女3人で箱根旅行に来たと勘違いされてもおかしくないくらい、男の子達を全く写していない私の携帯やデジカメ。

帰宅した後、親に写真を見せてと言われた時の為に小細工してしまったのだ。

こんな私を悠一君はどう思うんだろう……




「……奈央?どしたん?」


不穏な顔なまま愛撫を受ける私を、悠一君が心配そうに顔を覗いてくる。


「……今日、一緒に写真撮れなくてごめんなさい」

「写真?」

「私…悠一君との旅行を親にバレるのが嫌で、一緒に写真撮れなかった…」

「ああ…」


奈央らしいな〜と笑われる。

どいつもこいつも、と。


「どういう意味…?」

「奈央、気付いてた?進藤も今日緒方さんと一枚も写真撮ってないんやで?」



……え?



「そういえば…」

「それどころかアイツ、外では緒方さんとほぼ話すらしてないと思うわ。どうしてか分かる?」

「え……そりゃあ」


進藤君が緒方さんと外で絡まない訳――それはもちろん前回の松山の時と同じだろう。

進藤君は有名人だ。

女の子と一緒にいるところを写真にでも撮られようものならネットでの炎上は必至。

それどころか、週刊誌や全国ネットのワイドショーでも普通に暴露されるかもしれない。


「アイツのファンは日本中におるけんなぁ。眼鏡やマスクしたところで熱狂的ファンの目を欺けるわけもないし。今日もアイツ、各所各所でパシャパシャ隠し撮りされよったもんなぁ」

「た、大変だね進藤君……相変わらず」

「まぁええんちゃう?多少障害があった方が燃えるモンやし。昼間出来んかった分、今頃アイツら部屋でめちゃめちゃイチャイチャしようやろし」

「そ、そうだよね……」


そういう私達も既にほぼ裸だ。

悠一君は私と会話しながらも徐々に浴衣を脱がしていき、愛撫をずっと続けていた。

そして会話が一区切りしたところで、お互い次はこっちに集中することにした。


多少障害があった方が燃える――ということなら、お互い実家暮らしなことや私の家に門限があることも、ある意味燃える要素になってるんだろうか。

悠一君のご両親の不在中に部屋でコソコソするエッチも確かに燃える。

在宅の時はラブホを使うことも確かに非日常で燃える気がした。



「……ぁっ…悠一…くん…」

「……は……奈央……」


付き合い初めてもう4年半が経つけど、もちろんこんな温泉旅館に一緒に泊まるのは初めてだ。

もしかしたら布団の上でするエッチも生まれて初めてかもしれない。


何かお互い止まらなくて、気付いたら日付が変わっていて。

でもそこから更に何時間も続けてしまった。


おかげであんまり寝れてない私達は、翌朝寝不足でちょっとフラフラだった。

でもまぁ6人ともが同じような感じだったから、2日目の観光は大人しく全員一致で諦めることにした。

チェックアウトギリギリまで各々旅館で過ごし、そしてそのあとは真っ直ぐ家に帰った。




後日、進藤さんから写真のデータが送られてくる。

そこには私と悠一君が二人で並んで写ってる写真もたくさんあって驚いた。(いつの間に撮ってたの?!)

その中の一つを私は携帯の待ち受けに使うことにした。

そしていつか堂々と二人で旅行に行こうね、と心に誓ったのだった――










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