●MEIJIN 7●





彩ちゃんが変だ――



いつから変になったんだろうか、と思い返してみる。

昼間は普通だった。

皆であちこち観光して彩ちゃんも楽しそうにしていた。

旅館に着いた時も普通だった。

お互い浴衣に着替えて、「京田さんカッコいいvv」といつものテンションでキャーキャー言っていた。

温泉は当然男女分かれて入った訳だけど、進藤君と西条君と名人リーグや碁聖戦について語れてかなり充実した時間になった。

温泉から出て女性陣と合流して、次は夕飯を食べに行ったわけだけど。

この時も彩ちゃんは「美味し〜い♪」と懐石料理にご満悦だった。

あの量を相変わらずパクパクすごいスピードで平らげていて、見ていてすごく気持ちよかった。

食事を終えたら皆と解散。

二人で部屋に戻って来ると、綺麗に布団が二組敷かれていて……ちょっと緊張した。


今思えばその頃にはもう変だった。

この布団を見たらまた何か言ってもいいはずなのに、何故かスルーしてテレビを点け始めた。

彩ちゃんの好きなアニメの時間なのだろうか、と思ったけど違ったみたいで、チャンネルはバラエティー番組のまま。

しかも大して見ずに、カバンからマグ碁を出してきた。


「一局打たない?」

「……いいけど」


いいけど……よくない。

プロになるくらい碁が好きな俺だけど、さすがにこの状況で集中出来る訳がない。

奥のテーブルで打ち始めたわけだけど、少しでも視線を横に向けてしまうと終わりだ。

嫌でも布団が目に入って来る。

初めて彼女と温泉旅行に来ている訳だから、当然俺だって夜は期待している。


でも、何か……今の彩ちゃんは全然そんな雰囲気ではない。


どうしたんだろう。

もしかして生理中なんだろうか?

付き合い出してまだ3ヶ月な俺らだけど、その短期間でも分かったことが一つある。

それは生理中は彩ちゃんの近付かないでオーラが凄いということだ。

というか単に機嫌が悪い。

でもさっき普通に温泉入りに行っていたしな…。

何年か前に家族旅行で温泉に行った時、妹のどっちかが「こんな時に生理になっちゃった〜〜」と泣く泣く温泉に入るのを諦めていたんだ。

女って大変だな、くらいにしかその時は思わなかったわけだけど。

ということは、もし彩ちゃんが今生理中なら同じことを言っていたはずだ。

でも温泉に入ったということは、違うんだろう。


じゃあ何でこんなに静かなんだろう?

もしかして俺のせい?

俺、何か彩ちゃんの気に障るようなことしたかな…?



「京田さん、集中してる?」

「え?」

「いいの?このままだと私に負けるよ?」

「……そうだな」


このままいくと、俺の2目半敗けだ。

情けない……



「もう終わりにしようか。検討は別にいいよね」

「うん…」


マグ碁を片付けた彩ちゃんは、布団にゴロンと寝そべって、テレビを見出した。

チャンネルを次々に変えていって、でも大して面白そうなのがなかったからか、また最初のバラエティー番組に戻した。

俺もとりあえず自分の布団に入る。

携帯を弄る振りをして、横目で彩ちゃんの浴衣姿を眺めた。



……めちゃくちゃ可愛い……



彩ちゃんは何を着ても似合う子だけど、こういう浴衣姿もかなりいい。

普段はあんまり感じない色っぽさも感じる。

自分の体が少し…反応したのが分かった。



彩ちゃんはスキンシップが大好きな女の子だ。

いつもなら彼女の方から近寄ってきて、「しよ?」と求めてくる。

でも今日の彩ちゃんは変だ。

もしかして……今日はしたくないのだろうか。

そうだったらどうしよう……





「10時かぁ…」

見ていた番組が一区切りしたのか、彩ちゃんが携帯で時刻を確認して呟いた。

「もう寝ようかな…」



……え?



「京田さんはどうする?」

「どうするって……」

「京田さんももう寝る?」

「……」


本気で聞いてるのだろうか。

本気でこの状況で、何もせずに眠れると思ってるのだろうか。

この状況で、好きな女の子を横にして、男が我慢出来ると思ってるんだろうか。


「……彩ちゃんさぁ」


俺は彼女の元に移動し、布団に寝そべったままの彼女に跨がった。

体を上に向かせて、手首を掴む。


「このまま大人しく寝れると思ってるわけ?」

「京田さん…」


顔を赤く染めてくる。

もうめちゃくちゃ可愛くて、俺は我慢できずに直ぐ様彼女の唇を奪い――最初から深くて激しいキスをした――


「――…んん、…ん、……んっ」


彩ちゃんも積極的に舌で返してくれる。

俺が彼女の胸にも手を伸ばしても、拒否はされなかった。


「……は…ぁ、…彩ちゃん…」

「京田さん……」

「ごめん。でも俺……したい。いいかな…?」


彩ちゃんにクスリと笑われる。

でもって背中に手を回されてぎゅっと抱きつかれる。


「もちろんいいよ!京田さんがそう言ってくれるの、私待ってたんだから!」










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