MEIJIN 51〜佐為視点〜





王座戦・第1局の翌日、僕は一週間ぶりに学校に行った。


「おはようさん、進藤」

「おはよう西条」


いつも通り西条がやって来て、ホームルームが始まるまで駄弁る。


「王座戦、どうやった?初の師弟対決は。何や前夜祭から気合入っとったやん」

「ちょっと喋り過ぎたかな?」

「いいんちゃう?評判めっちゃ良かったみたいやし」

「そう…」


父との初めてのタイトル戦。

思った以上に力を発揮することが出来て、満足のいく一局となった

2局以降もこんな碁が打てたらなと思う。


「そういや緒方さんも塔矢名人についに勝ってたな」

「うん、精菜も喜んでたよ」

「何となく勝ちそうな気はしてたけどな…」

「そうなんだ?」

「進藤、ここ何局かの緒方さんの棋譜見たか?特にこの前の社先生との十段戦……アレはヤバいな」

「……」



僕の名人戦・第5局の前夜祭の日に行われた社先生と精菜の十段戦・予選決勝。

精菜が勝利し、決勝トーナメントへの切符を手に入れた。

僕ももちろん棋譜は確認したけど……西条の言う通り恐ろしい内容だった。

社先生の苦手な打ち方、欠点に重点を絞った的確な内回し。

且つ精菜が得意とする圧倒的なヨミのスピード、深さ。

彼女のペースに引きずり込まれた社先生が自滅したような…、少し後味の悪い碁だった。

何がなんでも勝つ、何をしてでも――というような気迫が感じられた一局だった。





『お兄ちゃん大変!精菜、今日の社先生との対局に負けたら、お兄ちゃんと別れるつもりらしいよ!』

「……は?」


前夜祭前に彩からかかってきた一本の電話。

昼休みに精菜から直接聞いたらしい。

今日の対局に負けたら……僕と別れる…、と。


即座に精菜に確認の電話をしようとしたけれど、当然まだ対局中の彼女が電話に出ることはなかった。

そのままスタートした前夜祭。

動揺を隠せなかった僕は前夜祭中ずっとぐるぐるそのことばかり考えてしまって、顔色も悪くて、ついには対戦相手の母に

「佐為、大丈夫?」

と心配されてしまったほどだ。


前夜祭が終わるとまた即電話する…も、一向に出ない。

中継サイトで精菜と社先生の対局の棋譜をガン見し続けた。

そして精菜が勝利となった瞬間に……僕は床にしゃがみ込んだ。



(よかった…、本当によかった…)



でも、どうして彼女は突然そんなことを言い出したのだろう?

ホテルに戻って来た彼女から、ようやく折り返しの電話がかかってくる。

『社先生にはそれくらいの気構えじゃないと勝てないでしょう?』と――

僕と絶対に別れたくない精菜が課した、彼女にとって一番の枷だったという。


(これは喜んでいいところなのか…?)

 




「…精菜にとって公式戦は実験台だったらしいよ」

「は?」

西条が首を傾げる。

「母に本気で立ち向かう為のね…」


昨日の女流本因坊戦の映像も、僕は昨夜確認した。

珍しく精菜の左手には扇子が握られていた。


(あの扇子…、確か僕があげた…)

『夢』


僕が夢にまで見た父とのタイトル戦を、同日同時刻に戦っていたからだろうか。

まるで僕の夢を応援してくれてるみたいで、見守ってくれてるみたいで…、嬉しかった。


(早く精菜に会いたいな…)


今頃彼女は秋田のホテルを出発したぐらいだろうか。

早く夕方にならないかな。

早く会って…、抱き締めたい――

 

 

 

 



ピンポーン


夕方18時。

ようやく今日も補講の山から解放された僕は、急いで緒方家を訪れた。


「佐為、お疲れさま」

とガチャリとドアを開けながら挨拶してくる彼女に、僕は玄関に押し入って即座に抱き締めた――


「おめでとう…、精菜」

「あ…ありがとう…、佐為」

「会いたかった…」

「うん…、私も。お父さんの天元戦以来だから、2週間ぶりだね…」


彼女の部屋まで待てない僕らは、玄関でそのまま早速キスをし始める。


「――…ん…、…ん…っ…」


もちろん今日は平日で精菜の母親は仕事、緒方先生も棋院で現在対局中で、今は精菜一人だと知っているからだ。

今日の先生の対局は本因坊リーグで持ち時間は5時間。

キスを解いたあと、僕は精菜と一緒に彼女の部屋に行きながら携帯中継をチェックする。

緒方先生と芹澤先生の対局。

もう終盤に入っていて、両者とも残り時間は1時間を切っていた。


(あんまり時間ないな…)


このまま行くと緒方先生が1目半勝ちするだろう。

それを見越して芹澤先生が早々と投了するかもしれない。

もちろん検討や取材もあるから多少は終局後も棋院に留まってはくれるとは思うけれど……


「佐為…、おばさんとの一局、どう思った?」

「うん…、精菜の必死さが伝わってきたよ」

「ふふ…、最後時間攻めまでしちゃった。ちょっと私らしくなかったよね…」

「ちょっとね」

「でも…、そうでもしないと勝てない相手だったから…」


どうしても勝ちたかった――と彼女は言う。

僕の為に――


「ちょっとはおばさん…、疲れてくれてるといいんだけど」

「どうだろうな…、昔も時期によってはトリプルタイトル戦を戦ってたぐらいだしな…。お母さんの気力は底知れないよ…」

「そうだよね…」


一緒にいつも通りベッドに腰掛ける。

彼女の頬に早速チュッと口付ける。


「……佐為、ごめん。私、今生理中…」

「…そうなんだ」

「ごめんね…?したかった?」

「まぁ…、そりゃね。でも生理が来るのはいいことだよ。来なかったら精菜も不安になるだろう?」

「ふふ…、そうだね」


精菜が僕の下半身に触れてくる。

彼女は生理中はいつもそうだ。

僕が触れない分、僕に満足してもらおうと奉仕してくれるのだ。

2
週間もの間禁欲していた僕の下半身に、彼女の手の動きは効果絶大で。

あっという間に射精感が襲ってくる。


「――…は……」

「佐為の表情…、すごく色っぽい…」

「…え…、――…ん…」


精菜に唇を奪われる。

舌を絡め取られる。


「…ん…、んん……」


すっかりSモードに入ってしまった彼女に上も下も攻められて、あっという間に僕は撃沈した。

彼女の手の中に溢れた精液をペロッとひと舐めされる。


「結構濃い…?」

「…薄い方がよかった?」

「ふふ…、怒った?佐為可愛いvv」


後処理をした後、僕らは次の予定を立てることにした。


「来週のお父さんの天元戦の時には生理も終わってると思うから」

「でも同じ日に精菜も女流本因坊戦の第3局だろ?」

「あ、そうだった…、高松行かなきゃ」


その前にある僕の名人戦第6局の時は、精菜も対局日だから来て貰うことは出来ない。


(え…、もしかして次会えるの11月…??)


「僕も高松行こうかな…、解説枠まだ空いてるかな…」

「やだ、佐為ってば〜。これ以上学校休んだら崇原先生泣いちゃうよ?それに第3局の解説は芦原先生にもう決まってるから」


その言葉にピクッとなる。


芦原先生…だと……


「ちなみに聞き手は彩だよ。彩と一緒に本場の讃岐うどん食べてこようかな〜。楽しみ♪」

「……」

 



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